里穂の受難は何日も続いた。昼間は女中達にいじめ抜かれ、夕方以降は帰宅した英玲奈まで加わった。
「ねぇ、里穂。あなた今学校でなんて呼ばれてるか、分かる?華谷『大』先生、だって。傑作じゃない?」
英玲奈の揶揄いに、女中たちは大笑いで応じる。里穂だけが、顔を真っ青にして押し黙っている。
「でも早く里穂先生に復帰してほしいって生徒は、多いみたいよ。男子生徒ばかりだけどね。私、理事長の娘だから先生の住所くらい分かるだろう、って言われて、何枚か手紙を預かってるの。ほら、読む?」
もはや学園に戻ることなど考えられないし、思い出したくもなかったが、拒否することは許されない。無理やり目を通すことを強いられるのだが、その中身に、里穂は顔をしかめた。男子生徒達が歪んだ精の欲望を乱雑に書き綴ったもので、見るに絶えなかった。途中で正視できなくなった里穂を許さず、今度は英玲奈がそれを読み上げ始めた。
●里穂先生、僕は先生がどれだけ変態でも構いません。先生のお尻が忘れられません
●先生、戻ってきてください。家に引きこもって純平といやらしいことをしている暇があるんだったら、俺の相手もしてくれませんか?
●僕のラインの連絡先です。呼んでくれたら、すぐに駆け付けます。純平より俺のナニの方が、たぶん大きいし、先生を満足させられると思います
「やめて、もう十分でしょう!聞きたくないの!」
耳を塞いで、里穂が悲痛な叫び声をあげる。どうやら里穂が純平と淫らな関係にあることが吹聴されている節がある。おそらく、英玲奈がそんな噂をまき散らしているに違いない。こらえきれずに、そのことを里穂が問いただすと、英玲奈は平気な顔で返した。
「八つ当たりはやめてよね。あの日から、純平も学校こなくなっちゃったのよ。居づらいのはわかるでしょ?そうしたら、勝手にそういう噂が流れたのよ。二人とも引きこもりになって、傷を舐め合ってるんじゃないか、そのはずみでエッチなことになるんじゃないか、ってさ、思春期の男子達なんだからそんな妄想くらい、普通じゃない?」
「もう、分かりましたから…。それより、純平は今どこにいるんですか?」
「ああ、彼ね。実際ショックで引きこもってたみたいなんだけど、今日担任の北村先生が訪問したそうよ。相当憔悴しきってたみたい。心配だから、しばらく先生の家で預かるんだって」
「な、なんですって!北村先生が…」
自分を学園から追放した中年女に、弟の身柄をさらわれた。里穂は憤怒のあまり、床を両手の平で打ち据えた。
「何がそんなに不満なのよ?じゃあ、彼もこの屋敷に来てもらう?ねぇ、エリス、男の子の下僕、欲しい?」
「欲しいですわ!可愛らしい男の子なんでしょ?」
「ダメ、ダメです、ここに弟を連れてくるのは…」
この屋敷に、弟を引き込めば、それこそ姉弟揃って家畜の身分に堕とされてしまう。北村が自分への逆恨みを弟に対してぶつけることは、想像に難くなかったが、それでも英玲奈とエリスという二人の悪魔に飼われるよりは、いくらかはマシに思えた…。