カレとワタシのひどく不適切な愛情 > 第1章 セクハラ被害
[あらすじ]
私の名前は、摩耶。総合商社でOLをしている、二十五歳。 悪質なセクハラに悩んでいたけど、勇気を出して告発した。加害者の上司は、すぐに左遷された。それから私は、大好きな先輩社員と交際中。仕事も恋愛も全てが順調だった。
ある日、人事部から「女子社員向けに、セクハラに関する座談会を開くので、出席してほしい。新入社員研修の一環だから」と言われた。 泣き寝入りする女性がいなくなってほしい。そんな純粋な気持ちで、私は首を縦に振った。

…だけどそれは、巧妙に仕組まれた罠だった。 その先に、自分の恋愛観までも破壊してしまう、淫らな運命が待ち受けているなんて……

2026.01.19 永井 亮
女性一人称、ラブストーリー
読者タグ: なし

私は、この会社、総合商社の北斗物産では、元々派遣の事務員として働いていた。エース社員の添田さんの専属アシスタント的な業務(添田さんの旅費精算の代行をしたり、ひっきりなしに来る海外からのレポートの下読みをして、フォルダに仕分けしたり)をこなしていた。分厚いメガネをかけて、年中マスクをつけて、人目を避けているような、冴えない、地味な女子社員だった。
人生に転機が訪れたのは、世界中を恐怖に陥れた、あのパンデミックの時期。
私のような派遣のスタッフは、契約の関係で在宅勤務も出来なくて、ロックダウンの時期にはほとんど失業状態だった。在宅勤務が始まったばかりの混乱した時期に、個人的にお手伝い(?)のために、添田さんの自宅を訪れてから、私の人生は激変した。
全く想像もしていなかったけれどあの日、添田さんと私は、結ばれた。オフィスじゃなくて、自宅で二人きりになるっていう状況が、私たちを急接近させた。置かれている環境からの影響は、すごくあったと思う。
でも添田さんは、前から私のことが気になってたって、そう言ってくれた。
なりゆき任せとだと言われたら、否定できない。始めは、私、遊ばれてるのかな、って。そう思わない日はなかったけど、それでもよかった。それくらい、素敵な添田さんだったから。
外出自粛が叫ばれる中、ガラガラの電車に乗って、大井町にある添田さんのマンションに毎日通い詰めて。両親と住んでいる自宅には、帰ったり帰らなかったり。添田さんとの半同棲生活みたいな日々が二か月くらい続いた。
そんなこんなで、かなり遅かったけど、二十五歳でバージンも捨てることができた。

「摩耶は、メガネしてないほうがずっと可愛いよ」
添田さんにそう勧められて、中学生の時以来初めて、メガネを外して、コンタクトレンズに変えた。化粧も入念にするようになって、オシャレにも全力を尽くすようになった。添田さんに見合う女になりたい、っていう一心で。
 流行病にも、やがて特効薬やワクチンが出てきた。すると、あっけなくロックダウンが終わって、次第に社会も平常通りに戻っていった。でも、私自身の生活は、パンデミックの前と後とでは、ずいぶん変わった。
会社に出社するようになると、周りの人たちの私への視線が一変していた。女として、見られている。そう実感した。少しくすぐったいような感じだけど、悪い気はしなかった。なにしろ今まで、添田さん以外の人にとっては、誰からも注目されない、空気みたいな存在だったのだから。
 
でも、すぐに喜んでばかりもいられなくなった。部署内で少しだけ目立つ存在になった私は、上司からセクハラの標的にされ始めた。添田さんの直属の上司でもあるその男は、課長の笹山といって、社員さんの中でも私が一番苦手なタイプだった。
メガネで地味な事務員だったころの私に対して、この男はとにかく横柄だった。外見が変わった私に対して、手のひらを返したみたいに馴れ馴れしく接してくるようになった。そうして、私が添田さんと交際していることを嗅ぎつけてからは、意地の悪い嫉妬心が掻き立てられたのか、露骨にいやがらせを働くようになった。
始めは、すれ違いざま、スカート越しにお尻にほんの少し指先が触れるといった程度のものから始まった。黙って、気づかないふりをしていると、行為はどんどん大胆になっていった。
ある日、キャビネットの裏に立って、印刷物の製本作業をしていると、お尻を思いきり鷲掴みにされた。
「何するんですか!」
「ああ、すまんすまん。君のデカケツがあんまり張り出してるから、ぶつかってしまったようだね、くくく」
昔から少しコンプレックスに感じている、私の大きなお尻……それをからかう最低な言葉を耳元で囁くついでに、耳の裏を舌で舐め上げられた。そんなことが、毎日続くようになった。
日ごとにエスカレートしていくセクハラに我慢できなくなって、私はある日、早朝のオフィスで抵抗を試みた。あいつが始業一時間前には出社して、新聞を読んでいるのを私は知っていた。朝いちばんに出社するなり、課長席に向かった。セクハラ行為に、抗議するためだ。

「課長が私にしていること、ほんとに困ります。もう、やめていただ……」
「ああ、笠谷君、おはよう!そういえば、そろそろ契約の件、考えないとねぇ。もう三年だっけ?」
「えっ……」
「添田にばっかりピチピチした女子をあてがうのも癪だなぁ。次の更新の時には俺の面倒もちょっとは見てもらおうっかなぁ」
 肘掛け椅子にふんぞりかえった姿勢で、不自然に盛り上がったズボンの股間の部分を指で弄りながら言った。ものすごく不快だったけど、言い返せなかった。こんなセクハラ上司のいる職場、すぐに辞めてしまいたかった。派遣会社の担当者に電話して、その日限りで辞表を叩きつける。そんなイメージが頭に浮かんだ。

添田さんがその気になってくれさえしたら、こんなところにいなくったって

……でも、添田さんからすぐにプロポーズしてもらえる見込みは、なかった。 
付き合う前は知らなかったけど、添田さんは、バツイチだった。前の奥さんとの間に五歳の男の子がいるということも。離婚の理由は、未だにはっきりとは聞けていない。私がこの会社で働き始める、少し前に別れたんだとか。
再婚なんて決断するのは、きっと時間がかかるだろうし。前の奥さんと子供の養育費もあるだろうし。会社辞めたい、なんて言い出したら、きっと添田さんは私のこと、負担に感じてしまうだろう。だって、私たちは付き合ってまだ半年も経っていないんだから。 
だから、最低な上司のいる職場でも、まだ辞めるわけにはいかなかった。
「何、あんまり嬉しそうじゃないね?やめとく、更新?」
派遣契約の打ち切りをチラつかされた私の動揺は、簡単に見透かされた。それが、セクハラ上司を勢いづかせてしまったんだと思う。
「添田にはバレないようにしてやるからさぁ、あいつがいない時だけでいいから、な?お前のデカ乳とデカ尻、時々揉ませろよ。俺の気分によってはよぉ、正社員にもなれるかもしれないぞ?」

笹山は、添田さんが外出している日を狙って、私を弄んだ。昔の資料を探して来いといって、書庫に向かわせては、私の後を尾行してきた。
人気のない書庫の、書棚と書棚の間。シャツブラウスの中に手を突っ込んで、ブラの下から十本の指を侵入させた。添田さんの手で、女としての悦びを教えてもらった私の乳房は、卑怯者の愛撫にさえ、惑わされた。
「いいのかぁ?こんなにコリコリさせて?俺とやりたいんじゃないか、お前も?なぁ?」
 背後から私の乳首を摘まみ上げながら、笹山課長は勃起した股間をスカート越しに擦りつけてきた。
 それでも、セックスだけは断固として拒んだ。添田さん以外の男性を受け容れるなんて、絶対に嫌。まして、こんな卑怯な男に抱かれるくらいなら、死んだ方がマシだと思った。
手で笹山を満足させることで、身体を奪われることだけは回避した。いつか、この男が私に覆いかぶさって、無理やり組伏せられるんじゃないか。毎日が恐怖との闘いだった。

Xでポスト

このエピソードの感想を書く

まだ感想はありません。