(ああ、そんな……こんなの、おかしいわ……)
 ちづるは、五条の尖端が肉溝に滑りこんでくる感触に慄いた。
三十代も終盤に差し掛かってなお、ちづるの性愛感には純朴なところがあった。愛する男以外でのセックスでは快楽は生じない、とナイーブにそう信じていたのだ。
だが、有田による執拗なクンニが、膣襞を甘く蕩けさせてしまっていた。甘い愛の囁きや、優しい愛撫の代わりに、尻や腿を打たれ、喉奥にイラマチオを浴びせられた後だというのに、ペニスを迎える自らの膣の『熱』は、夫との性交におけるそれと何もかわらない。そのことに、ちづるはショックを受けていた。
腰を落としてゆくごとに、亀頭が膣の襞を切り拓く。摩擦で生じた熱が、そこから膣全体に、燎原の炎の如く広がっていく。
背後の男から、射精の気配を察知し、直前で結合を解いて立ち上がる。頭のなかで、そのシミュレーションをしようと試みる。だが、男の様子を探るどころか、ジンジンと疼き蠢く自身のヴァギナにばかり、気を取られてしまう
(しっかりなさい!絶対、中に出させるのだけは、それだけは絶対に避けるのよ。……気持ちを強く、持つのよ。でないと、大変なことになってしまう……)
最奥部まで結合を深めたあと、休むことも許されず、そのまま、スクワット運動のような恰好で抜き差しを求められた。
腰をあげ、結合を浅くしていく『復路』は、人妻にとってより過酷な試練であった。
「ああっ!くぅぅぅぅっ」
「ふへへへ、わかるか?名残り惜しく感じるだろう?」
夫の壮平のそれと比べて、五条のペニスが、極端に大きかったり、硬かったり、というわけではなかった。だが、一つ際立った特徴は、その雁首の張り出した形状にあった。腰を上げるごとに、膣襞が、まるで鉤爪で引っ掻かれるような錯覚に陥る。
「こんなへっぴり腰でも、すごいだろ?もっとスピードアップして、リズミカルにパコパコしたら、ふふふ、おまえ、もうゴムがどうとか、どうでもよくなっちまうぜ?」
「そ、そんなわけ……、くふぅぅぅん!」
 五条は、基本的にソファに踏ん反りかえっているが、時折腰を突き立てたり、反対にクイっと引いたりしてちづるのペースを乱す。
ともすれば、自身の内奥に快感の毒気が溢れかえってしまいそうになる。そうならないよう慎重に、スローな出し入れを保とうとする女の意志を挫くように、五条はランダムな出し入れを浴びせてくるので、ちづるはたちまち肩で息をするようになった。
「スクワットの姿勢もそろそろキツイか?いいぞ、ほら、こいよ」
 五条がちづるを抱き寄せた。ちづるの両脚を広げさせ、自らの閉じ合わせた両膝をまたぐような姿勢を取らせた。必然、結合が一段深まり、膣は一層強く男根を巻き締めた。
「おおぅ、いいじゃないか、ちづる。うれしそうに、キュウキュウ締め付けてくるぞ」
「ちがう、そんなわけ、む、むぐぐぐぅ」
 否定する言葉を洗い流すように、五条が唇に吸い付いてきた。
 舌の根を吸われ、大量の唾液交換を強いられるうち、ちづるの眼から意志の光が陰り、代わりにうっとりとした艶が浮かぶ。
「俺たち二人には、これはもう要らないな」
 そう言うと、五条はちづるの手首の拘束を解いてしまった。
「ほら、こうして指を絡ませると、安心するだろう?」
 さっきまで仁王立ちで自分の喉奥をレイプしていたことなどとっくに忘れてしまったかのように、甘い口説き文句を耳に吹き込みながら、自らも腰を動かし始めた。
「なあちづる、あんな奴のことは忘れて、俺と再婚しようぜ?そしたらこんな、有田みたいな雑魚には指一本触れさせねえよ」
「馬鹿な、ありえません。もう、お願い、少し、黙って!」
歯の浮くような口説き文句に嫌気が差した。そんな風を装ったが、その実、膣内の蠕動は一層熱っぽくペニスをマッサージしていた。嫌悪感のバリアで、どうにかして陥落を免れようとしていたのだ。
「いっそここで、何かの間違いで、赤ん坊ができちまったらよぉ、お前も踏ん切りがつくだろ?な?」
「い、いや!もう、もう放して!」
 五条の狙いは、どうにかちづるを丸め込んで、膣内射精を許可させようとしていることだと分かると、ちづるは五条の手を振り払い、床を蹴って立ち上がろうとした。亀頭の鉤爪が膣襞をめくり返すその衝撃に備えて、身構えた。だが……
「やれやれ、こっちはまだゴールまで全然遠いってのに、勝手に切り上げられたんじゃ、話にならねぇ。作戦変更。和姦モードはやめて、ゴリゴリの強姦モードでいくぞ」
 ペニスが抜け落ちる寸前で、腰のあたりを引き寄せられて、肉棒は膣の隘路を再び遡行していった。男の指が人妻の腰回りの肉に思い切り食い込む。欲望の塊を吐き出すまでは、決して肉の結合を解いてはならぬ、と強く戒めるかのようだ。
「いやっ!やめてっ!お願い、中で出してはダメぇぇぇぇぇっ!」
賃貸ビルの中の一室なのだ。金切り声を上げて叫べば、他のテナントが異変に気付かれるかもしれない。それでも、ちづるは叫び続けた。さきほどまでちづるの手首を戒めていたネクタイを、有田が拾いあげた。結び目で握り拳大の『瘤』をつくると、そのままちづるの口元に突っ込み、頭の後ろで結わえてしまった。
五条はもうソファから立ち上がり、ちづるの背後から覆いかぶさって、抜き差しを繰り出しはじめた。ちづるは上半身をティーテーブルに預けたような形で、眼前のタブレットカメラは、パニックと怒りに震える人妻の顔面を大写しにしている。
「やれやれ、あまり芸のない、強姦シーンになっちまったが、仕方ない。汚職議員の妻を、国民を代表して、滅多刺しの刑に処するぞ!」
「むぐうぅぅぅ、ぐぐうぅぅぅむぅぅぅ」
うめき声で精いっぱいの抵抗を示す。涙で、視界がかすむ。大切に守ろうとしてきたものが、今、落下し、朽ちようとしている。ちづるの閉じた瞼の裏に浮かぶのは、愛を誓った、二人の男の顔だった……

◆◆◆

ちづるは、都内の有名私立大を卒業後すぐ、テレビ局に入社した。新米政治部記者として二年間奔走した後、転機が訪れた。同局で海外特派員をつとめていた、ある先輩社員が短期帰国してきたときだった。軍産品の輸出に関するスクープ絡みで、ちづるはその三十前の先輩と共同取材をすることになった。 
二人は、あっという間に恋に落ちた。たった一週間だったが、ちづるは、これまでの二十四年の人生で経験した数以上のキスとセックスを一度に経験した。
男が駐在先の欧州へ戻る成田空港で、ちづるはプロポーズを受けた。指輪も何も用意されていなかったが、ちづるは頷いた。
ところが。男は中東のハブ空港で乗り継ぎ便を待つ間、自爆テロに巻き込まれて命を落とした。そのたった一ヶ月後、ちづるは自分の腹が、別の命を宿していることを知ったのだった……

ちづるがこれまでの人生で膣奥を預けたのは、後にも先にもその先輩社員、いづみの父に当たる男ただ一人だった。
もちろん、壮平にはそれを捧げるつもりで、結婚した。子供も作るつもりではいたのだが、選挙が終わり、議員生活が落ちつくまでは、と避妊具は常に着用していた。

秘奥を、壮平以外の男の精に晒すことは、自分やいづみ、そうしてその亡父の人生までもをも冒涜する行為だ。ちづるの心を捉え離さないのは、そんな脅迫観念であった。

◆◆◆

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