かりそめの幸せと家畜の自覚

その後の数か月は、里穂にとって平穏そのものだった。英玲奈やエリスからのイジメも一切なくなった。エリスに至っては、里穂のことを「奥様」と呼び、恭しい態度で接してきた。
英玲奈は、相変わらず不機嫌そうだったが、大学受験での成功をほぼ確実にし、奔放な高校生活を益々謳歌しているようで、屋敷ではほとんど寝るだけの生活を送っていた。自然と、里穂に対する歪んだ憎しみも解消したように見えた。
里穂との間で子作りをすることを誓ってから、初めて迎える生理の日を経て、二人の『妊活』が始まった。排卵予定日になると、権田は全ての仕事を投げ出して、里穂と寝室で一日中過ごした。
「ああ、あなた、ちょっと激しすぎるわ、少し、休憩にしましょう、ねぇっ!」
「ダメだ、今日は大事な日だろ、時間が惜しいんだ。一滴でも多く、俺の精子を、呑み込んでくれ、ほら、ほら!」
切実に子供を求める世間一般のカップルと全く同じように、二人はセックスに没頭した。
その甲斐あってか、里穂は、あっけなく懐妊した。妊活開始してから、一度も生理が訪れることはなかったのだ。

妊娠四か月のある日。里穂の腹は少しふっくらと丸みが見て取れるようになった。胸の方も、以前より重たげに揺れている。
「里穂、身重の中申し訳ないが、今日の午後、大広間で少しセレモニーというかパーティーがあるんだ。出席してくれないか?」
「はい、もちろんです。でも私、マタニティ用のフォーマルなんてもってないのですけど」
「いや、そんな堅苦しいもんじゃないさ。君は、普段の楽な恰好で来てくれていいから」
「分かりました。あの、セレモニーって、一体何なんですか?」
険しい顔をした権田は、それには答えずに、そそくさと出ていった。里穂は、首をかしげた。

夫である権田(とはいえ三親等の二人は戸籍上の婚姻関係は結び得なかったので、内縁の夫婦、ということになる)の腕を掴みながら、里穂は会場である大広間に足を踏み入れた。大勢の前に顔を出すのは、久しぶりだったが、夫が背中や腰を支えてくれる安心感からか、不思議と緊張はしなかった。
だが、会場の中に、見覚えのある顔を見出すと、里穂の表情は固まった。染谷と原口(父親の方だ)が親し気な態度で自分たち夫婦に話しかけてきたのだ。
「やぁ、理事長、里穂先生、ご無沙汰しております。里穂先生も、すっかり奥様というかんじですなぁ」
「お腹の赤ちゃんの方も順調だそうで。今、何か月ですか?」
 里穂はそれには答えず、権田の背中の後ろに隠れるようにして、押し黙っている。
「安心したまえ、里穂。この二人も、もうお前を苛めたりはしないよ」
「そうですとも、昔のことは水に流して、仲良くしてくださいよぉ」
「我々保護者会を代表して、ご出産のお祝いは盛大にさせていただきますから、ね!」
 権田は、里穂を屋敷に引き取った時に、染谷と原口に対して会費の一千万円をそれぞれ返金していた。二人は、散々里穂の身体を弄んだ挙句、結局一銭も持ち出しにならなかったのだから、不満があるはずもなかった。
里穂は、過去の凌辱者たちがバカに愛想よく近づいてくるのに、吐き気を催した。彼らは、罪の意識も感じていないのだ。「保護者会」という言葉が、他の淫鬼たちの顔という顔を想起させ、里穂は立ち眩みがした。
苦痛を訴えかける里穂を、権田はソファに座らせた。パーティーは立食形式だったが食欲など湧くはずもなく、少し離れた位置にあるソファで気持ちを落ち着かせる必要があった。権田は里穂の隣に座って背中をさすってくれている。里穂は、この「パーティー」が、いったいどういう趣旨のものなのか、もう一度訪ねたが、やはり権田は答えようとはしなかった。
そうしているうちに、次の来訪者が視界に入ってきて、より一層激しく里穂の心を揺さぶった。どこかで聞いたような、オネエ言葉に、里穂は思わず耳を塞いだ。
「あら、里穂さん、お久しぶりねぇ」
「ああ、どうしてこの人が!」 
里穂は権田に対して抗議するが、権田はこれを無視して、この官僚に恭しい態度で接した。
「その節は、本当にお世話になりました。うちの学園はトラブル続きで、窮地に陥っておりましたが、何とかお力添えのおかげで、今年の受験は急場をしのげそうです」
「あら、そう。それは良かったわ。里穂さんも、あの時はちょっと悪ふざけしすぎちゃって、ごめんなさいねぇ。あなたとっても可愛かったから、つい苛めすきちゃったの。ゆるしてね!」
矢永が立ち去ると、里穂は権田に猛然と突っかかっていった。
「ひどいわ、あんな人たちの前に私を連れて行くなんて、あんまりよ」
 普段の権田であれば、絶対にしないような行動に、里穂は心底動揺していた。今日の夫は、どこかおかしい。変によそよそしく、終始周りをキョロキョロ見回しているばかりで落ち着きなく、里穂のことを気遣う様子が感じられないのだ。
「ちょっと、色々挨拶廻りをしていかないといけないから、行くよ。君はここで座ってまっていてくれ」
里穂の方を直視しようともせず、出席者の集団の中へ足早に歩み寄っていく夫の姿に、里穂は言いようのない不安を掻き立てられた。
一人ぼっちの里穂の前に次に現れたのは、教頭の影山だった。
「教頭先生、いらしてたんですか」
立ちあがろうとする里穂を制止して、優しい声をかけてくれる。
「久しぶりだね、里穂先生。あんなことがあったけど、結局最後には幸せになってくれたみたいで、本当によかった」
「その節は、本当にご心配、ご迷惑をおかけしました。その後、教頭先生はお変わりありませんか?」
「いや、その、色々変わったね。実は僕は、先月早期退職しちゃって、後任は北村先生が務めているんだよ」
「えっ…北村先生が…」
里穂は、激しく動揺した。あの非道な女性が教師たちのトップに立っている。すでに学園から遠く離れた身とはいえ、どうしても不快な気持ちになってしまう。

北村は、相変わらず弟の純平の私生活も面倒を見てくれているらしい。既に学園を退学してしまった純平に、英語の授業を施し、また自費で他の科目の家庭教師もつけてくれているというのだが、どうしてもあの浣腸の仕打ちが頭をよぎる。北村という言葉を耳にするだけで、里穂は動悸がするのだった。
権田は、純平を屋敷に迎え入れる提案を何度もしていたが、里穂はどうしても踏ん切りがつかなかった。かつてのDV加害者と姉の自分が結ばれ、いまその子供を産み落とそうとしている。弟が自分の選択を受け容れてくれるか、里穂は自信がなかった。結局、権田から北村に固く忠告し、純平に危害を加えないことを約束させたことで、事態は小康状態となっていた。この『婚姻』に関して、純平のことだけが、里穂にとってのわだかまりだった…
しばらくあれこれと思いを巡らせているうちに、影山との間の会話の途中であったことに気が付き、里穂は慌てて言葉を継いだ。
「で、でもどうして影山先生が、ご退職する必要があったんでしょうか」
「いやぁ、それは、理事長が退職金に少し色を付けてくれるといってね。あと、お金以外にも、色々『ご褒美』があるというから、つい誘惑に負けてしまってね、へへへ」
「えっ…?」
影山の口調が、妙にイヤらしい響きを帯び始め、里穂は胸騒ぎを覚えた。
言葉の意味を問いただそうとしたその瞬間。会場の前方に、マイクの音声が聞こえてきた。

「えーっ、ご来場の皆さま、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠に、ありがとうございます!」

 運転手の濱田がマイクの前で濁声を張り上げている。何やら、彼がこの会の司会役らしい。音量調整がうまくいっていないのか、大きすぎる音声に、来場者は眉をひそめた。

「あ、あ。失礼いたしました。えーっ、人の世といいものは、出会いと別れの繰り返しでぇ、あります。永遠の愛を誓い合った男女であっても、その例外ではありません。また、どのような尊い職業についていても、人は所詮自らの欲望の奴隷なのです。本日お目に掛けるのは、連れ添った妻、夫の元を離れて、自分の欲望のままに生きることを決めた『番(つがい)』いや、男女の生きざまです。それでは盛大な拍手でお迎えください。星園学園の元教師、南野涼平くんと、その妻、聡美夫人です!」

 里穂は、言葉を失っていた。ドクドクと心拍数が上がっていく。次の瞬間、目に飛び込んできた光景は、心臓の鼓動を止めてしまうほどに衝撃的だった。会場の入り口から、南野夫妻が、一糸纏わぬ全裸で、曳かれてきたのだ。
 聡美夫人の傍らには体育教師の森田がぴったりと寄り添っており、反対に南野の側では、エリスがふらつく足取りの生贄の身体を支えている。
 夫妻のそれぞれの左手の薬指には、か細く、赤い糸が互いを結んでいた。里穂は、直感的に、これから行われる悪趣味な「セレモニー」の趣旨を感じ取り、式の進行を止めようと必死で悲鳴をあげていたが、聴衆たちの大歓声にかき消されてしまう。
 やがて、夫妻は、いつの間にか壇上に立っていた権田父娘に身柄を引き渡された。
 南野の方は、もはや呆然自失の状態で、力なく英玲奈のほうに身体を預けていたが、夫人の方は、必死の抵抗を続けていた。
「森田先生、なんなのこれは!こんなの、ウソだって言って!あんなに、愛してるって、あんなに…」
「観念しな、聡美。あんまり抵抗すると、この権田理事長だけじゃなくて、来場者全員に輪姦されることになるよ。それはイヤだろ?」
 夫人に向かって冷酷に告げると、森田はその背中を権田の方に向かって突飛ばした。
「ふふふ、聡美さん、といったかな。安心してもいいぞ。私はそこの森田君と違って、情が深い。しっかり可愛がってやるから、なんにも心配しなくてもいい」
権田が夫人の耳もとで囁いた。観衆は、下劣極まるこのショーに魅了されている。

「まずは皆さまに、ことの経緯を説明しておかなければなりますまい。この南野という男は、受け持ちの生徒である英玲奈ご令嬢に手を出して、あわや逮捕されようかというところを、慈悲深い旦那様の情けで今日までのうのうとシャバの空気をすっているのであります。それでも南野は英玲奈様に未練タラタラ。お小遣いまで渡して時折手コキ奉仕をさせているのだそうです。流石に、これには忍耐強い聡美夫人も、また慈悲深い旦那様も堪忍袋の緒が切れてしまい、夫人のためを思って二人の仲を引き裂こう、ということになったのであります。
哀れな夫人は、人恋しく、欲求不満を拗らせ、無軌道な性の衝動のままにその日暮らし。旦那様が見かねてこれを拾ってあげることになりました。そうして、皆さまご観覧の前で、この縁切りセレモニーを開催することとぉ、あいなりましたぁ」

壇上で夫妻は、前かがみの中腰の姿勢を取らされた。「挿入待ち」の姿勢の男女を、凶器が襲った。夫人の方を狙うのは、言うまでもなく権田のペニスだ。一方、英玲奈は、制服のスカートの上から、ペニスバンドで野太いディルドを腰に固定し、元担任教師の男の肛門を穿とうとしていた。
「哀れな夫人には、これから旦那様の特大の、それも真珠入りのペニスのご褒美が授けられます。一方、向かって右手のご令嬢の腰についているもの、じっくりご覧ください。お気づきですか?これは旦那様の男性器をかたどった実寸大のディルドでございます!女性がどんな思いをして特大のペニスで突かれるのか、女が味わう苦しみ、悔しさ、惨めさ、それを最後にどうしても夫に知ってもらいたいという夫人のたっての希望で、ご用意いたしました!」
 濱田の口上はほとんどデタラメだったが、観衆は真実などには興味がない。この凄惨な白黒ショーの刺激にやられて、目は爛々と光り輝き、哀れな夫婦が暴力で蹂躙されるのを、いまかいまかと待ちわびている。

 里穂は、もう涙を流して絶叫していた。それが、南野夫妻を地獄に落としてしまったことに対する自責の念なのか。あるいは権田が欲情しきった様子で、屹立を夫人の股座に押し当てていることに対する絶望なのか、自分でも分からなかった。混乱しきった様子の里穂の背中をさすりながら、影山が囁きかけてきた。
「ショックですなぁ、里穂先生。でも耐えなくては。理事長のような大人物は、とても一人の女では間に合わないんだ」
「ああ、教頭先生まで……こんな悪事を許すのですか」
「許すもなにも、私はそのおこぼれに預かるために、ここにいるんだよ」
「…ど、どういう、意味ですか」
「分からんかね、私は君の身体と引き換えに、辞表を書いたのだよ」
「イヤ、そんなのイヤよ!聞きたくありません、もう、あっちへいってください!」
「なに、さすがに身重の君を犯すのは許可されてないよ。お世話になるのは、出産後さ。それまでは、そうだなぁ、軽いお触りくらいは許してくれるんじゃないかな、理事長も」
影山の手が背中から、里穂の胸元に伸びてくる。
「おうおう、いい感じに膨らんできておるわぁ」
タプタプと揉みこんでくる手を、かわすため、必死で身を捩る。
「あなた、繁晴さん!助けて、こっちよ、ここにいるの!ねぇ!」
助けを呼ぶ悲鳴は、白黒ショーの妖しいBGMと歓声にかき消されて、誰にも届かない。むしろ、悲鳴はハイエナを招き寄せてしまう。今度は矢永がソファの反対側に腰かけて影山との間で挟撃してきた。うなじや耳の裏をねちっこく舐めながら、さらに里穂を絶望させる事実を告げる。
「哀れよねぇ、助けを呼ぶ相手を間違ってるんじゃないかしら?そもそも、権田っちの奴、もうあなたのこと、出産マシーン兼売春要員としか思ってないわよ?分からないの?」
「ウソよ、信じないわ!もうあっちへ行ってよ!」
必死で手足をバタつかせるが、男二人に取り押さえられ、結局好き放題に身体をまさぐられる。
「私もねぇ、このまえ権田っちから話持ち掛けられたの。今度大臣と顔をつなげってさ。今度は政界進出でも狙ってるのかしら。それで、その餌があなたってこと。まあ、献身妻としてはさぁ、ジイのチンポの一つや二つ咥えてナンボって話じゃない?うふふふ」
「そ、そんな…」
「しかもさぁ、権田っちってほんとに酷いのよ。今すぐに大臣と面会したいのに、あなたのお腹が大きいんじゃ取引にならないって、怒り出すのよ。とんでもないわよね。」
「あぁ、もう、十分でしょう…聞きたくありませんっ!」
 それでも矢永は続ける。
「それで、今すぐにでも使える駒が欲しかったんだって。そうして目にとまったのが、あの森田って教師の情婦だったってわけでしょ。あの女も、急ピッチで調教仕上げられて、すぐ『納品』されちゃうんでしょうね。ほんと、とんでもない悪党よ。私なら、もうちょっとレディーをリスペクトするけどねぇ」
「ああっ!お願い……一人にさせて、お願い!あぁ、あぁ!」
眩暈がする。こんなことが、許されるのか…
パニック状態に陥った里穂の元に、いつの間にか壇上を離れた森田がやってきた。
「やぁ、里穂。久しぶりじゃないか。もう、説明はいらないよな。俺は、聡美を理事長に売って、それと引き換えにお前をもう一度抱けることになった。まあ、こいつらオッサンと似たような立場だよな」
「誰があなたなんかと…」
「そう邪見に扱うなよ。俺の想いを受け止めて、俺と結婚しておけば、お前もここまで堕とされなかったと思うぜ。自業自得じゃないか、ああ?」
「もう、黙って…」
「だってよぉ、お前、まだ妊娠四か月だっていうのに、もう出産後の身体を少なくとも三人の男に売られているんだぜ、ひでえ話だよ」
「ははは、オマンコの先物取引、傑作だわ!この会場にもかなり金持ち連中がいるだろうし、他にも相当数の先約はありそうね」
残酷すぎる現実を突きつけられても、里穂は頑なにそれを認めず、顔を伏せて、うずくまっている。

南野は英玲奈によってアヌスに突き立てられたディルドの衝撃に、泡をふいて悶絶していた。だが、勃起だけはしっかりとしており、英玲奈がそれを扱きたてた。なんども寸止めをくらわしたが、ふとしたはずみで、南野は限界を迎えた。
「ああ、すまない、聡美、ゆるしてくれぇ!」
 ドピュっという音が聞こえてきそうなほど、見事な放物線を描いて、南野のスペルマが夫人の流麗な頬を汚すと、男たちはいっせいに罵詈雑言を投げかけた。
「あーあ、情けない。パパが終わるまで、そこに正座してみてなさい」
一方、権田は、一心不乱で聡美を突き上げていた。鷲掴みにした双乳は勢いよく母乳を噴出している。(子供を放棄した後も、森田に毎日乳首を吸われ続け、未だに豊富な母乳を産出してつづけているのだ)
権田は、サービスだとばかり、滴る母乳を染谷と原口に恵んでやった。今や、三人のゾンビに肉を貪られていた。まさに、ソドムの市だ。

壇上の盛り上がりにつられて、里穂を取り巻く三匹の悪魔も、行動をエスカレートさせていった。里穂は半狂乱で手足をバタつかせる。お腹の子の生育によくないだとか、もっともらしいことを言いながら、三人の男たちは暴れる里穂の両手両足を押さえつけ、挙句の果てには、妊婦服のボタンを外し、剥ぎ取り始めた。
「大丈夫ですかね、こんなことして」
影山が、心配そうにいうと、森田が返す。
「大丈夫っすよ。理事長の顔見てください。こっちのことなんで見向きもしないで、ひたすら聡美のマンコに集中してるでしょ。それよりも、むしろほら、おっぱいにしゃぶりついている染谷と原口のオッサンの二人、あいつらが里穂の方をチラチラみてますよ。こっちに乗り換えようかと機会をうかがってますぜ。まったく呆れたスケベオヤジだ」
「ふふふ、ほんとねぇ。里穂、がっかりしなくったっていいわ。権田っちに捨てられたって、あなたのファンはまだまだいるのよ。いっぱい可愛がってもらえるんだから、安心しなさい」
里穂はもう反論することもやめ、ただただ首を左右に振り乱すのみだった。

遠のく視界の前に、突然、純平の姿が現れた。南野と同じように、全裸に剥かれており、おまけに首輪を繋がれている。リードの端は、北村が握っていた。
「ああ、純平!ひどい、弟には、手を出さないと、約束したじゃない!放して、放しなさい、弟から、その手を!放さないと、殺すわ!早く!」
里穂は最後の力を振り絞って、呪詛の言葉を喚き散らした。惨めな思いを重ねすぎて、もはや、錯乱状態に陥っていた。だが、北村は余裕の表情で返した。
「手を出さないって、そりゃあこっちのセリフよ。この子、もう盛りのついたサルみたいに私とエッチしたがるのよ」
「ああ、ウソよ、あなたなんかに…」
「あら、信じないの?じゃあ、本人に聞いてみましょうか。ねぇ、純平ちゃん。私のこと、そんなに好きなの?」
「ママ僕のこと捨てないで、もっと、もっとママとやりたいんだ!」
「ああ、なんてことを……」
この北村のことをママと呼んでいる弟の姿に、里穂は心底打ちひしがれた。もう、何も視界に入れたくはない。目を、耳を覆った。
「もう手に負えないからって、理事長に相談したんだけど、そしたら……」
「北村先生、いえ、教頭先生、わざわざご足労、ありがとうございました」
 英玲奈が駆け寄ってきて、カットインしてきた。
「あ、そうそう。英玲奈さん。この子、あなたが引き取ってくれる、っていうことで間違いなかったわよね?」
「ええ、父からそう聞いています。純平は私がしっかり飼育しますから。ご心配なく」
「度を越した甘えん坊になってしまったから、苦労するわよ」
「大丈夫です。あの薬は、1、2か月もしたら落ち着いてきますから」
薬?里穂の頭は話の展開についていけなかった。何らかの薬物を用いて、北村は純平を支配していたのか。なんということだ。自分が、権田との間で欺瞞に満ちた安らぎを謳歌している間、弟の尊厳は粉々に砕かれていたのだ。

あ、そう、と興味なさそうにいうと、北村はさっさと立ち去ってしまった。英玲奈は、北村からリードを受け取ると、早速純平の身体に纏わりついた。
「ふふ、私さぁ、いろんな男を見てきたんだけど、なんでだろう、あなたが情けない顔しながらおチンチンカチカチにしてるのを見るのが、一番濡れるのよね」
「ああ、英玲奈ちゃん…」
「私と、したい?」
「したい、したいよ」
「いいよ。あなたとなら、ちゃんとした、普通のセックスさせてあげる。あなたのお尻をいじめようってわけじゃないから、安心して」
「やめてぇーーーー!やめなさい!純平、ダメよ、その子のいいなりに、なっちゃだめ!」
姉の絶叫も、発情しきった弟の耳には届かない。英玲奈は、里穂と向かい合わせのソファに純平を座らせると、ノーパンのスカートをたくし上げ、そのまま腰を落としていった。
「ああ、ほんとに逞しくなったわ、純平のおチンチン。うふふ、あんなババアにでも発情しちゃうんだから、無敵よね。いいわ、たっぷり私のオマンコで扱いてあげるね。私は、里穂と違って、あなた一筋よ。あんたのおねえちゃんはもう、パパだけじゃなくて、この会場のみんなの共有物になっちゃったの。里穂のことはもう諦めて私と一緒に楽しいことしよ。ね」
「うん、ぼく、英玲奈ちゃんと、結婚したい。毎日毎日、やりまくりたいんだ」

 里穂は、色欲に狂ってしまった優しい弟を見るに絶えず、固く目を閉じている。今や衣服は全て剥ぎ取られ、どっしりと重い双乳や、ふっくらとした腹を嫌らしく撫でまわされるがままになっている。
見まいと思っても、時折、どうしても視線が権田や純平の方を向いてしまう。目を開く度に、里穂は激しく後悔した。
権田は、いつ果てるとも知らない抽送を続けている。射精のタイミングで夫妻の指輪の間の赤い糸をハサミで切断するという、安っぽい演出のために、濱田がにやけ顔で待機している。
純平と英玲奈は、十代特有の激しさでもって互いの肉と肉をぶつけあっている。パンパンという音と共に、汗とも愛液ともしれない飛沫が里穂の頬にまで飛散してくる。

(家畜だわ…家畜になりきるしかないの。そうでないと、耐えられない。人間の幸せなんて、もう望んじゃだめなのよ。肉の悦びだけを、ありがたく受け取るしかないのよ)
諦念とともに、何故か里穂の脳裏に浮かぶのはあの三匹のドーベルマンだった。獣たちの、殺気すら感じさせるほどに固いペニス。今の自分はもはや捨てるものなど何もない。あの獣たちとの交尾すら、受け容れられるような気さえした。
                                   
                                      完

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