その夜、里穂は憤辱の高ぶりから、寝付けなかった。権田に対する猜疑心がムクムクと芽生え始めた。屋敷に転居した初日の夜以来、里穂は権田とベッドを共にすることはおろか、まともに会話をすることも許されていなかった。自分の窮状を気にする気配もない。どこか遠い学校で再就職先を見つけてくれるというあの約束は、本当に果たされるのであろうか?
おまけに、先刻英玲奈から聞かされた話によると、北村はまだのうのうと教師を続けているのだ。あの日、激昂した権田は北村をクビにするとたしかに言っていたはずだ。それなのに…
夜中にあれこれ思い悩んでいるうちに、一つの結論にたどり着いた。つまり、権田は、自分の気持ちを弄んでいるだけで、初めからこの家でペット同然の扱いをするつもりだったのではないか、ということだ。まんまと自分が騙され、ほとんど洗脳されかかっていたことに気づいて、里穂は悔し涙に枕を濡らした。
里穂はふと気が付いた。いつもは、首輪につながったリードの端がベッドの木枠に固定されているのだが、今夜に限ってそれが外れているのだ。エリスが、うっかり忘れてしまったようだ…。
(逃げなくちゃ。もう、なりふり構っていられない)
全裸の里穂は、廊下を忍び足で進み、衣裳部屋に潜り込んだ。英玲奈の季節外れの冬物のコートなどが、その部屋には皺まれていた。肌を隠すための丈の長いコート、そして走りやすいスニーカーを拝借すると、里穂は急いでそれらを着用し、戸外へ駆け出した。
屋敷の裏口から出て、国道沿いに二十分も歩けば、たしか警察署があったはずだ。事情を洗いざらい話してしまおう。もう、セックスや浣腸の動画をばらまかれても、自分の恥ずべき過去を晒されても、気にしている場合ではない。人間の尊厳を維持するため、全てをさらけ出してでも、あの悪魔の親子を告発しなければならない。
決然と門扉に手をかけ、それを開こうとした矢先、頭上の真っ白な照明がカッと頭上自らを照らした。後ろから、凶暴な番犬の鳴き声が聞こえてきた。恐る恐る、振り返えると、ドーベルマンのリードを引いた三人の女中がそこに立っていた。
「残念だったわね。私がそんなミスをすると思った?」
エリスが残忍な笑みを浮かべている。
(ああ、罠だったの…)
里穂は、血の気を失って卒倒しそうになる。さらにその後方から、権田親子の影が近づいているのが目に入った。
「どうしたのよ、そんなに落ち込んじゃって。この女に逃げられたのがそんなにショックなの?」
話の内容からするに、この親子は里穂の忠誠心をめぐって賭けをしていたらしい。英玲奈は里穂が逃げ出す方に、権田自身はその逆に賭けていたのだ…里穂の脱走未遂を口実に、英玲奈は実の父を難詰している。
「さ、この女がパパの奥さんとしては相応しくないってことは明らかになったでしょ。ペットとして飼うのなら認めてあげるから、さっさとアレ、やりましょうよ」
「ほ、本当に、やるのか…」
「まだためらっているの?呆れた。いいわ、私が段取りしてあげるから、パパはそこで指くわえて見てなさい」
里穂は、英玲奈にリードを引かれて、犬小屋の前に連行された。付近の明かりはごく小さく、薄暗い中で、直径三メートルほどの円形の囲いの中に収まった、その猛犬達のドーベルマンのシルエット。さらにはそのけたたましい荒々しい咆哮鳴き声が、里穂を震え上がらせている。
四つん這いにされた状態の里穂の身体に、英玲奈と女中たちは、ブラシのようなもので粘性の液体を塗り込んでいった。
「一体、何をするの…お、恐ろしいことはやめて…」
「ふふふ、このワンちゃんたちは、特殊な調教をされててね。麻薬の成分を含んだもの見つけると、狂ったように舐め舐めしちゃうの」
「で、これは練乳なんだけど、その中にすこーしだけ混ざっているのが…ふふふ、何がしたいかわかるわよね?」
「いや、いやよ、やめて、ごめんなさい、私が悪かったです、反省しますから、そんな恐ろしいことはやめて!」
「大丈夫よ。舐めるだけだから、危なくはないわ」
必死で足を踏ん張り、抵抗する里穂だったが、英玲奈を含む四人がかりで力づくで引っ張り上げられ、とうとう檻の中に投げ入れられてしまった。里穂の首輪のリードは、檻に固定されてしまったので、もはや脱出は不可能だ。
「あぁ、言い忘れてた。基本乱暴なことはしないこの子達なんだけどね、逃げ出されると泥棒とみなして噛みつくように訓練されているの。じっとしてないと、危険かもよ」
平然と言い放つ英玲奈の言葉に、里穂は恐怖のどん底に堕とされた。
獰猛な番犬たちが、にじり寄ってくる。不思議と、先ほどまでの鳴き声は止み、慎重な様子で鼻先を里穂の四肢に近づけてくる。四つん這いの裸身に、犬の鼻の濡れた感触が伝わり、里穂は全身を総毛立たせた。やがて、塗り込められた練乳の中に、トリガーとなる成分を嗅ぎつけたのか、獣たちが一斉に涎を垂らした舌を暴れさせた。
「はぁぁぁ、ひぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃっ!」
経験したことのないような不快感で、背筋が凍りつく。練乳は、里穂と乳房とヴァギナに集中的に塗り込められていたので、自然と敏感な部分が狙われる。身震いのあまり、里穂は両手両脚で身体を支えることができなくなった。地面に崩れ堕ちて身を捩り、今度は仰向きに倒れこんでしまった。
「里穂、危ない、抵抗するんじゃない!」
檻の外から権田の叫び声が聞こえ、里穂は身体を石のように固くした。両腕で身体を覆いたかったが、それが獣たちを刺激しかねないのだ。両手の指が、汚辱を耐え忍ぶように、芝生を握りしめる。爪の先が、芝生を通りこして土にめり込んでいる。(ああ、怖い、死んでしまう…)
番犬たちにむしゃぶられ、身体を震わせる里穂の手先に、ふと見覚えのある感触があった。権田が、檻の中に入って、里穂の手を握りしめていることに気が付いた。
「繁晴さん…危険です、ここから離れてください」
「こらえるんだ、里穂。直にこいつらの気も鎮まる。それまでは、じっとしてるんだ!」
権田の手のぬくもりだけを支えに、里穂は約二時間もの間、ドーベルマンによるクンニリングスを耐え忍んだ…。
里穂の肌から麻薬成分を全て舐めとったのか、やがて番犬たちは里穂の身体から離れていった。もう夜も空け、空は白ばみつつあった。全身から力が抜けたように、里穂は放心状態になっていた。
「里穂、すまない、こんな目に合わせてしまって…」
「私が悪いんです、逃げ出したりなんかするから…」
二人は手を握りしめたまま、見つめ合っていた。
(繁晴さんは、私のことを思ってくれていたんだわ。英玲奈が、邪魔したんだわ。あの悪魔の子が、全て悪いのよ…)
「ねぇ、パパ、邪魔なんだけど。そろそろ第二幕始めるよ」
「ま、まだ何かするんですか…」
檻の外から投げかけられた英玲奈のセリフに、里穂は震え上がった。
「これからが本番よ?ワンちゃんたちの様子、見てごらん。お薬が効いてきたみたい」
もう辺りはすっかり明るくなっているので、番犬たちの姿もはっきりと見て取れた。胴震いをしながら、異常なほど涎を垂らしている。
「あなたのオマンコから舐めとったお薬なんだけど、これは雄犬を強制的に発情させる効果があるのよね。この子達、今はもう完全に決まっちゃってるわけ。そうすると人間の女を雌犬と勘違いするの。ほら、見てごらん、おチンチン、ゴリゴリに固くしてるわ、かわいいでしょう?」
「ひ、ひぃぃぃ」
よく見ると、番犬達のペニスはほとんど先端が地に着かんかというほど膨張し、伸長しているではないか。三匹の犬との間で交尾をさせられようとしている。英玲奈が言うには、飼い主である英玲奈の合図をだけを待ちわびて、今待機しているというのだ。里穂は、狂ったように泣き叫んで、許しを請うた。
「そんなの、イヤ、お願いですから、許して、なんでもしますから、この家の奴隷でも構いませんから、犬となんて、ああ英玲奈様、どうか、どうか!」
必死の命乞いも無視し、英玲奈は自らのサディズムに酔いしれたかのように語っているだ。
「ワンちゃんのセックスってすごいのよ。二時間三時間平気で勃起し続けるの。なんか、亀頭のところに瘤がついていて、それが膨らむから一度挿入すると、なかなか外れないんだって。三匹とも終わる頃には、何時になるだろう。もうお昼どきじゃないの?あはははね」
英玲奈のセリフに里穂はもう顎が諤々と震えさせ、言葉を返す余裕もなくなっている。
「ちなみに、犬に中出しされたらどうなるか、知ってる?」
「ひ、ひぃ…」
「ふふ、大丈夫よ。犬人間が生まれるわけじゃないわ。そもそも受精までいたらないから。哀しいわね。でも、こんなにいろんな危険なお薬とか飲まされてるわけじゃない?それが精液を経由して身体に入ってくるわけだから、何が起こるか分からないわよね?」
「もうやめろ英玲奈、やめてくれ!」
「ふふ、さすがのパパもしゃぶづけの犬に犯された女を抱く気にはならないでしょ?ほら、さっさと始めるよ。この女とバイバイしなさいよ」
「頼む、英玲奈、お前の欲しいもの、何でも買ってやる、何でも、好きにさせてやるから、そんな惨いことはしないでくれ、後生だから!」
「そう?じゃあ、私を東大に入れてよ。勉強なんて一切する気ないけど、パパだったらできるでしょ?」
「ああ、分かった、どうにかする。なんとかするから里穂を檻から出してやってくれ!」
「ああ、繁晴さん!」
気付けば里穂は、赤ん坊のように、繁晴の身体にしがみついていた…