西條君が、また私の目の前に迫ってきた。研修室の出入り口とは反対方向に駆け出したけど、すぐに部屋の端で行き止まり。そうして、後ずさりしながら隅の方の、狭いスペースに追い込まれた。
建物の柱の部分の出っ張りと窓ガラスが交わる部分。西條君が長い腕を左右に大きく広げた。それが、直角三角形の底辺になった。部屋の隅に生じたその狭い空間に閉じ込められたのだ。
カレは相変わらず下半身を剥き出しにしたまま。怒っているような、悲しんでいるような、切迫した表情をしていた。カレの肩越しに見える、男の子達のスケベっぽい薄ら笑いとは対照的だった。
「ねぇ、もう……、もう、ここまでにして!何も、なかったことにするから、少し、落ち着いて!」
私の制止も聞かず、カレは私の両手首を掴んでコーナーに乱暴に押し付けた。男子社員が煽る。やれ、やっちまえ、っていう声が聞こえる。
カレの唇が迫ってきた。私は首を振って逃げた。すると、口元がちょうど私の耳元に重なった。
「俺は、今から摩耶さんのこと、レイプします。無理やり、挿入しますから、しっかり抵抗してください。俺、もう会社クビになる覚悟ですから」
「何を、い、イヤ、やめて!放して」
カレの左手が、手首から離れ、私の右脚の膝のあたりを掴んで、そのままグイと上の方に持ち上げた。脛のあたりがカレの肩の上に乗った。カレの右手は、器用に私の両手首を束ねて、窓ガラスと柱の交点に押し付けている。私の身体を支える左脚は、爪先立ちの状態になった。まるで、両手と片脚を拘束されて、吊り上げられているような錯覚に陥った。
「こんなこと、許さないから、絶対……」
「もっと、本気で叫んで、暴れないと。摩耶さんは、俺に、無理やり強姦されるんだから」
カレの言葉には、なにか違和感があった。閉所に追い込まれて、力づくに奪われようとしているのに、何か逃げ道が与えられているような、そんな不思議な感覚。
後から思いかえすと、あのときカレが与えてくれていたのは、『言い訳』だった。もしくは、強制わいせつの被害者、という『役割』だった。その『役割』から逸脱しない限り、私は許される。まだ、辛うじて添田さんに愛される資格が、残る。たとえ、身体が犯されて、汚されたとしても。
カレは、舌の奉仕で、半分蕩けそうになってしまった私を、元の軌道に戻してくれたのだった。たとえそれが、単にカレ自身の、抑えがたい欲望によるものだったとしても、私は与えられたその『役割』を演じながら叫んだ。
「い、いやぁぁぁ、やめて、やめて、やめてっ!」
もうとっくにズタズタに噛みちぎられてしまったパンストからは、中のショーツが剥き出しになっていた。首を左右に振って、大声で叫んだ。カレの右手が、私の手首を放して、股間の方へ向かった。
そこからは、一瞬だった。小さめのショーツ。だらしなくて恥ずかしい愛液で湿った布切れを掴み上げて、横手にずらすと、ソレが潜りこんできた。定刻ピッタリにホームに滑り込んでくる新幹線みたいに、スムーズに。当然のように、ゴムなんか着けていなかった。
その滑らかさを否定したくて、喚き散らし、自由になった両手でカレの肩を叩いた。
その日は、どちらかというと危険な日だった。避妊具なしのセックスをするなんて、絶対にありえない。もしもそのとき。本気で結合を解きたいのなら、足を蹴り上げたり、胸を思いきり突き飛ばしたり、もっといろいろ方法があった気がする。
でも、私は被害者としての『絵作り』に徹するだけ。握り拳で、カレの肩を叩く力も、次第に弱くなっていくありさまだった。
そのうち、もう物理的にも、逃げられない状態に追い込まれた。カレの右手が、私の直立した左脚の膝にも伸びてきた。右脚もまだ、カレの肩の上に引っかかったままだったのに。
まさか、両脚で?
私は、宙に浮いた。カレの両肩にかかった両脚と、壁と窓ガラスの隅に押し付けられた背中の摩擦。そうして、私の奥深くを貫いたカレのペニス。四つの『接点』だけが、私の全体重を支えた。
両腕を使ってカレの肩にしがみつこうとした。そうでもしないと、意地のわるい自重が、膣の中を大変なことにしてしまいそうだから。
でも、カレは許してくれなかった。私の両手首は、もう一度器用に束ねられて、コーナーに押しつけられた。カレは、もう私の脚を手で支える必要がなかった。深く、本当に奥深くまで繋がってしまったから、カレは私の体重を下半身で、長い肉の塊を使って支えた。
案の定、私の膣の中は、大変なことになった。カレの信じられないほど硬くて長いそれが、一直線に奥を目指してくる。直撃するのをどうにか避けようとして、腰を捻ったり、カレの肩の上にのった膝に力をいれて腰を少しでも浮かそうとする。でも、うまく身体をコントロールできなくて、結局はカレの硬いものが、膣の中のいろんな部分を引っ掻くばかりで、私を一層昂らせた。
そのうち、大人しくしていろ、とって言うみたいに、カレが腰を突き上げてきた。牡牛の『ツノ』が、私を叩きのめした。
最奥部にドスン、ドスン、ドスンと三度打たれた。等間隔で、同じだけの激しさで。それを繰り返されるうち、自分の身体がまるで大きな『銅鑼』にでもなったみたい。その振動というか、電流みたいなものが、身体の隅々にまで痺れを運んだ。
私の身体は、まるで砂浜に築かれたお城みたいな存在だった。潮が少しずつ満ちて、せっかくつくったお堀を水浸しにする。お城の本体も、ちょっとずつ、浸食されていく。最後には大波がきて、跡形もなく洗い流される……ちょうどそんな風にして、意識がもっていかれた。
私はそれまで、『イク』っていう経験を知らなかった。あのとき感じた全身の痺れこそが、私の人生で初めての絶頂体験だった。でも、あのときは混乱しすぎていて、身体の中で何が起こっているのか、理解ができなかった。なにがなんだか、さっぱり分からなかった。
大きな痺れと痙攣の後は、それまで意識的に叫んでいた悲鳴、抵抗と拒絶の意志表示はすっかり放棄されてしまっていた。代わりに、刺激に振り回されながら、次の大きな波を秘かに待ち望んでいるような、そんな悩ましい声があふれ出てきた。
「ダメだよ、そんなんじゃ」
カレの唇が私の唇を塞いだ。舌を吸われ、延々と唾液を流し込まれた。カレの口の中で呻き声をあげることしかできなくなった。カレは、私のふしだらな反応に蓋をしてくれた。かわりに、目に見えないところ、私のお腹の中では、思いきり暴れまわったのだけど。