ふと気が付くと、さっきまで私の背後にいたはずの鈴原主任は、教壇の上に立って、腕組みをしながらこちらを見下ろしている。私の背後では、代わって笹山が立っていた。私のお尻の部分に、大きく隆起した股間をグイっと押し付けながら言う。
「さぁ、諸君!気を取り直して、ケーススタディを始めようか」
イスに連結された、四角い小さなテーブルと、自分の勃起との間で私の下半身を挟み撃ちにしながら、男子生徒達を一列に並ばせた。
「角オナ狂いの女子社員とご対面だ。君たちなら、どういう風にこの場を乗り切る?ほら、実演だ、実演」
侮蔑の言葉を投げつけられても、反論できない。クリトリスや、膣の入り口に食い込んだ直角の部分のせいで、頭の芯が痺れてしまっていた。
列に並んだ男子社員が、順番に私の目の前まで近づいてきた。
西條君とその幼馴染との間で起こった出来事の、追体験……でも、幼いころの西條君とはまるで違って、研修会場の男子社員達は、私を露骨な言葉でいたぶった。
「もしもーし、お楽しみのところ、大変申し訳ないすけど、これ、僕の席なんで、こすりつけるの、やめてもらっていいですかぁ?」
「ああっ、ご、ごめんなさいっ……」
「こら、そんな言い方をしてレディに恥をかかせてどうするの。ゼロ点よ。ほら、次の君、どうぞ」
鈴原主任が教壇の上で険しい顔をしながら言い捨てる。
「センパーイ、いい趣味してますねぇ、角オナですかぁ。あ、俺、全然気にしないんで、遠慮なく俺のdesk、使ってくださいね。何なら、俺のdickも使ってもいいよ、なんちって。あはははっ」
「ふざけないの。そういうつまらないジョークもゼロ点。全く、さっぱりダメね、あなたたち。じゃあ、君。今の君だったら、どうする?やってみせてよ」
次は、西條君の番だった。カレは、もう伏し目がちではなかった。真っすぐに私の方を、熱の籠った目で見つめていた。
ゆっくり私の方に近づきながら、カレはベルトを解いて、それから、ファスナーを下ろしていった。会場がざわついた。
カレの、肉のついていない針金みたいな下半身から、ズボンがスーッと床に落下した。視線を少し上に戻すと、もうボクサーブリーフまでずり下されて、中から固くなったものが、飛び出ていて、ピーンと私の方向を指している。その間も、後ろから笹山に腰を不規則に押したり引いたりされているので、角っこの摩擦が私を責め続けている。
いけない刺激に翻弄されているせいか、私は迫ってくる凶器を、退けようともせず、ただウットリと見つめていた。
もう、その尖端が、私のスカートに触れるギリギリのところまできて、西條君は足を止めた。そうして……、手で自分の男性器を扱き始めた。おい、西條、お前何してんだよ、という嘲り笑いが聞こえてくる。でも、西條君は微笑一つ浮かべていない。思いつめたような表情でこっちをじっと、見つめている。
「俺も、同じ気持ちだから」
「えっ……」
そのときに生じた感情を、どう表現したらいいんだろう。カレが唯一、この部屋の中で、自分の味方だと、そう感じた。そのときは、なんでそんな考えにいきつくのか、自分でも分からなくて、混乱した。
私は、顔を赤くして、訳の分からない気持ちに戸惑いながら、カレの顔と、カレのペニスに対してただただ熱っぽい視線を返していた。
教壇の方から、拍手の音が聞こえてきた。鈴原主任だった。
「素晴らしいわ、西條君。それよ、恥ずかしさで傷ついた乙女の傷を癒すのは。自分の大切な、恥ずかしい部分をオープンにして、女だけに恥をかかせない。こんなことされたら、女の子はもうメロメロになっちゃうわね。ほら、見なさい、笠谷さんのこのウットリした表情!」
「えっ……ち、違う。そんなんじゃ」
反射的に否定したけれど、実際その通りだった。カレのあの行為が、恥ずかしいことをしているのが、自分だけじゃないって、そう感じさせてくれた。カレが自分の性器を露出して、恥ずかしい行為に手を染めることで、刺すような羞恥の痛みから私を守ってくれているって。鈴原主任に指摘されて、私はようやく自分の感情の裏側にあるものを理解した。
「え、えっ、ちょっと⁉」
西條君が、私の肩に手を伸ばしてきた。抱き寄せられる寸前で、私はその手を振り払った。背後の笹山の身体も突飛ばして、後ずさりした。恥ずかしい部分に食い込んでいたテーブルの角からも身を離した。
その瞬間。無機質なプラスチックが名残惜しむように、私のあの部分をか細い糸で引っ張るような、微かな引力を感じた。
三歩、四歩と後ろに下がって、西條君との間に距離を取った。カレのワイシャツの裾のその隙間から飛び出したペニスの先端は、まだ私に照準を合わせたままだ。
ふと、カレの背後に、他の男性社員達が、さっきまで私と接触していたあの四角いテーブルを取り囲んでいることに気づいた。ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「これって……あれ、だよなぁ?」
「間違いないって!この、ちょっと甘酸っぱい匂い……」
自分がテーブルの角に残してきた自分の分泌物が、たくさんの異性の視界に晒され、匂いを嗅がれている……何が起こっているかが呑み込めた途端、頭が真っ白になった。笹山が、傷ついた獲物をみつけたハイエナのように毒づく。
「摩耶君、会社の備品になんていうことをするんだい。ビジネスマナー違反だぞ、全く。どうやったらこんなに盛大に濡らすのかね?下着はちゃんと履いてるのか?」
「あ、当たり前です、ちゃんと、履いています!」
その言葉が、男の子達を変な意味で挑発する形になってしまった。
「マジかよ、パンツとパンスト越しでこんなに……」
「ってことは……中は、大洪水……ってこと⁉」
男の子達が生唾を飲む音が聞こえてきた気がする。
「ふふ、どれ、味見してみようか」
笹山がテーブルの角に付着している透明な液をツーっと中指の指先で絡めとり、下品な音を立てながらそれを舐めしゃぶり始めた。
「や、やめて、そんなこと、しないで、おねがいだから!」
「ふふ、まあ、少し苦味のある、標準的なマン汁の味だな。お前ら、クンニは経験済なんだろうな?もしまだの奴がいたら、ここで予習しておけ。匂いや味に驚いて顔をしかめたりしたら、それこそレッドカード物のマナー違反だからなぁ、ガハハハッ!」
西條君以外の男子社員達が、押し合いながらテーブルの角に手を伸ばし始めた。
「これが、マン汁の味かぁ」
「たしかに、生々しい風味だね。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「バカ、これはまだ薄口な方だぞ。モーっとキツイのもあるんだから」
自分の愛液の味を、好き勝手に品評される。こんなの、絶対我慢できない。私は、駆け寄って、テーブルの角に群がる男子達を追い払おうとした。でも、その途中で西條君に身体を抱きすくめられた。
「あっちに行っちゃだめだ。あんな奴ら、無視して」
「ちょ、ちょっと、放して、放しなさい!」
針金みたいに細い体躯をした西條君だったけど、ものすごく力が強くて、揉み合っている間に、床の上に押し倒されていた。
「僕は、摩耶さんのこと、絶対傷つけないから」
耳元で囁かれたその言葉が、魔法みたいに私から力を奪った。意識の深い部分で、何故かカレを受け容れてしまっていた。無理やり組み敷かれているのに、カレだけは、他の男達とは違う、私を守ってくれる存在かもしれない、って。
ほんとに、どうかしてる。でもとにかく、そのときの私は、そんな感じだった。