カレとワタシのひどく不適切な愛情 > 第2章 狂気のハラスメント研修
[あらすじ]
私の名前は、摩耶。総合商社でOLをしている、二十五歳。 悪質なセクハラに悩んでいたけど、勇気を出して告発した。加害者の上司は、すぐに左遷された。それから私は、大好きな先輩社員と交際中。仕事も恋愛も全てが順調だった。
ある日、人事部から「女子社員向けに、セクハラに関する座談会を開くので、出席してほしい。新入社員研修の一環だから」と言われた。 泣き寝入りする女性がいなくなってほしい。そんな純粋な気持ちで、私は首を縦に振った。

…だけどそれは、巧妙に仕組まれた罠だった。 その先に、自分の恋愛観までも破壊してしまう、淫らな運命が待ち受けているなんて……

2026.01.19 永井 亮
女性一人称、ラブストーリー
読者タグ: なし

それからも、言葉や軽いボディタッチを含んだ、いろんなセクハラ場面の実演をさせられた。ありえない茶番だったけど、誰も自分の味方はいない。
「これはイヤです。セクハラです!」
 そう訴えかけても、すぐに否定される。バカげた理屈をつけて、笹山と男子社員たちは、卑劣な痴漢行為を正当化した。次第に反論する気力も失って、その場が早く終わることだけを祈った。
とにかく胸元が気になった。胸が大きくて、揺れるのが嫌だったから、カップがしっかりホールドしてくれるものをいつも選んでいたけど、ホックが外れてしまえば、どうしようもない。少し身じろぎしただけで、プル、プルって弾むのを感じる。ブラと胸の間に入り込んだ空気が、もどかしい。ブラの生地に擦れて、乳首の尖端が甘ったるく痺れる。
 
この茶番が始まって、もう三十分くらいたったころだろうか。
「そろそろ、まとめに入りましょうか。笠谷さん、このプリントちょっと配ってちょうだい?」
 自分の身体の反応を鎮めるのに気を取られていて、鈴原主任の声が一瞬耳に入らなかった。
「おいおい、どうしたんだよ、そんなにうっとりしちゃって。もうすっかりセクシー女優役の方が気に入っちまって、雑用なんてやってられないわ、ってか?」
「ち、ちがう!そんなんじゃありませんっ」
 慌てて、駆け足で鈴原主任の待つ壇上に向かった。そうして、すぐにそれを後悔した。
「おい、見ろよ。すんげぇ揺れてんだけど」
「ほんとだ、水風船かよってくらい」
 男子社員達が騒ぎ立てた。
プリントを渡す際に、鈴原主任がそっと囁いた。
「一枚一枚を一人ずつに、ゆっくり、丁寧に手配りするのよ。いいわね」
 
『コ』の字型に並べられた長机を囲むように座った男子生徒達に、配布物を配っていく。男の子たちの眼から、近づいてくる私の胸元目がけて、焦げそうなくらい視線のビームが注がれるのを感じる。
不意に、生暖かい鼻息を乳首の辺りに感じた。少しでも至近距離で見ようと、一人の男子が思いきり身を乗り出してきたのだ。
「わ、ずるいなぁ、それ」
 すると、まだプリントを受け取っていない他の男の子たちが一斉に真似をし始めた。犬みたいに鼻先を突き出しながら、左右に顔を振ったりしている。
「い、イヤっ……しないで、そんなこと」
 半歩後ずさりして、距離を取ろうとした瞬間、お尻に指が食い込むのを感じた。
「ひっ!なにするんですか!」
「何って?君が私の手をめがけて、そのでっかいケツ突き出してきたんじゃないか?」
 そう言っている間も、笹山の手は私のお尻の上にまとわりついて離れようとしない。
「も、もう、いいですから、触らないで……」
「下半身は感じやすいからお触り禁止だったのに、自分からケツを突き出してくるとは、どういう心境の変化だ?」
「はっ、はぁうぅぅ!」
 スカートの生地を思いきりお尻の割れ目に押し込みながら、中指の尖端がさらにその奥を引っ掻いてきた。思いがけず、艶っぽい声が出てしまって、口を押えた。
スカートと、パンストと、ショーツ。その奥にある敏感な部分が唐突に刺激に晒されて、身体が反応してしまった。そのことが、もう誰の目にも明らかだった。
 魔の手から、逃れたくて、また爪先を半歩前に出した。笹山の痴漢行為を許すくらいなら、男の子たち視線や鼻息に耐えた方が、まだマシに思えた。
 でも、笹山に思いきりお尻を触られて、変な声を出してしまってから、男の子達の態度も、一層ひどいものになった。プリントを配り歩く私に対して、デカ乳、デカパイ、淫乱、欲求不満。そんな酷い言葉を含んだ野次が、ひっきりなしに浴びせられた。
 
ふと、視線の先に、ポールペンを前に突き出すようにして持ち構えている手が目に入った。ペン先が、クルクルと宙に円を描いている。このまま、近づいて行けば、胸をペン先で突かれるだろう。きっと、私の乳首に悪戯して、私から何らかの反応を引き出すつもりなのだ。抗議したら、きっと、

そこにペンを持っていただけなんですけどぉ?
この人が自分で、胸を押し付けてきたんです

とか、そういう風に言い逃れをされるのが、目に見えていた……
背後には、ぴったりと私にくっついた笹山の手が私のお尻を狙って蠢いている。見なくても、気配で分かる。少しでも後ろに下がろうものなら、また思いきり揉みこまれる……
「もう、やめさせてください!こんなの、研修でもなんでもありません!」
鈴原主任に向かって、助けを求めた。無駄とは分かっていたけど、そうしないわけにはいかなかった。なんでもあり、の状況になってしまったこの空間で、同じ女性として、頼れるのは彼女しかいない。
「そうねぇ。ちょっとこれは悪ふざけが過ぎるんじゃないかな、君たち」
 鈴原主任が、眉間に皺を寄せながら腕組みをすると、研修室内に緊張が走った。
「どうして、ペンをそんな風にもっているの?」
 悪戯を仕掛けようとした男の子を、鈴原主任が難詰し始めた。
「えっと……でっかいオッパイがペンに当たるか、実験してみようと思って」
 男の子は、茶化すように言ってみたが、笑い声はあまり起こらなかった。鈴原主任の険しい表情のせいだろう。
「やれやれ。あなたこの研修で、何を学んだの?そんな風に胸を悪戯の道具にされて、女性がどんな気持ちになるか、分からないの?」
「はぁーい。すいませんでしたぁ」
 男の子は、ふて腐れたようにいいながらペンをテーブルの上に落とした。良かった。ペンで悪戯されることは、免れた。
「ところで君たち、胸の大きい女性が日々感じている苦労、分かってる?満員の電車やエレベーターで、日々どれほど不安に苛まれているか、想像したことあるの?」
 鈴原主任が、味方になってくれている?でも、そこに薄気味悪さを感じた。
「でもぉ、胸が大きいって、具体的にどれくらいだったら巨乳ってことになるんですかぁ?」
ペンの悪戯を試みた男子社員が、負け惜しみのように言い放った。そういう話をしているんじゃありません、って鈴原主任が窘めてくれるかと思ったら、そうはならなかった。
「ふーん。そうね。言われてみれば、どれくらいのサイズだったら巨乳なんでしょうね」
「あ、あの、そんなこと、どうでもいいですから……」
 私の困惑など無視して、鈴原主任は手元のラップトップで何かを検索し始めた。
「二十代の日本人女性でいうと、一番多いのはCカップね。で、Cカップっていうのは、トップとアンダーの差が十四センチから十六センチまでが対象。だからこれ以上だったらとりあえず巨乳ってことになりそうよ」
 イヤな予感がしてきた。
「で、笠谷さん、どうなの?あなたは、巨乳なの?何カップ?」
 ああ、まただ。結局、恥ずかしい思いをすることからは逃げられないんだ。鈴原主任の眼は、拒否することを許さない。ここで、意地を張ったら、もっとひどい目に合わせるぞ。その目が、語っていた。私は、口を開いた。
「……Eカップなので、そういうことに、なると思います……」
 すぐに、後悔した。男の子達が、その言葉に、大歓声を上げた。鈴原主任は、冷たい微笑を浮かべるだけで、それを制止しようともしてくれない。
「ね。笠谷さんは胸が大きいことで、いつも苦労しているの。女性の大変さも気遣ってあげること」
 鈴原主任がやんわりとまとめても、いやらしくて、ジメジメした空気が既に復活していた。
 そしてまた、あのお調子者の坊主頭が、私を追い詰めた。
「でもさぁ、必死で寄せたり上げたりとかしてる奴だっているじゃん?偽乳ってやつ?そんな奴らにまで気を使わないといけないの、なんか癪なんだけど」
女性を侮辱する言葉に我慢が出来なくて、声を荒げてしまった。
「ふざけないで!あなたに何がわか……」
 笹山が、女をいたぶるための嗅覚を発揮して、カットインしてきた。
「おいおい、人を偽乳扱いするなんてひどいぞ、そこの坊主。これじゃあ摩耶君も黙っていられないじゃないよなぁ。しっかりこの場で汚名返上させてあげような」
「そ、そういう意味で言ったんじゃありません!」
 何か、ビーッっていう不快な音が鼓膜に響いた。視線を笹山の方に向けると、両手を使って何か大袈裟な身振りで突き出していた。手のひらサイズの巻き尺からテープが引っ張りだされているのが視界に入った。ショックで眩暈すら覚えた。

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