社長室で、サイズの合わないスクール水着を私に無理やり着せたあと、鈴原という名の秘書は、私がこの二週間の間、守るべきルールを言い渡した。
・橘社長及び鈴原の命令は絶対である。二人に対して性的満足を与えることが、唯一の業務である
・日中は、許可がない限り、この社長室を出てはならない
・衣服は、鈴原あるいは橘社長から指定されたものを除いて着用を認めない
(特に指示がない場合は全裸でいること)
・単身者寮にて、先輩である石川優奈と同居すること(自宅へ帰ることは認めない)
四つ目の指示に、私は動揺した。家にも帰らせないというのか。
「何?不満そうね。当たり前でしょう?日中ずっと見張っていたって、帰宅してから好き放題やられたんじゃ、意味がないじゃない。あなたも身の潔白を証明したいなら、我慢なさい。優奈はあなたの監視役でもあるからねぇ。優奈、しっかり見張っておくんだよ!」
鈴原は、吐き捨てるようにいうと、最後に優奈さんの頭部をグラグラと乱暴に揺さぶって、部屋を出ていった。
変形したセーラー服を着た優奈さんと、薄くて小さすぎるスクール水着を纏った私。社長室に残された二人の間を、気まずい沈黙が満たした。
「…ごめんなさい、私のせいで」
先に彼女が口を開いた。地べたに座り込んで、じっと床を見つめながら。
「えっ?」
私がここへ連れられて、軟禁されることになったのは、どう考えても彼女のせいじゃない。なのに、彼女は思いつめたように言った。
「私が制服なんて着てるから、それに合わせて、変な水着、着ていただかないといけなくなってしまって。その水着、私の高校生の時のものなんです…」
「そんな、優奈さんは、何も悪くないです。そもそも、ここに来たのも、自分で受け入れたからであって…」
彼女は、困ったような顔をしながら、鼻をすすった。泣いている。
彼女は、一体何者なんだろう。一日中社長室にいて、社長の性欲の捌け口にされている、それだけは分かっている。
「私のこと、さん付けなんてしなくていいですよ。他に誰もいない時は、優奈でいいです」
「じゃあ…優奈、ちゃん」
「はい、摩耶さん」
頑張って笑顔を作ってくれているけど、両目にはまだ涙が湛えられていて、瞳がキラキラと輝いている。その美しさは、この世のものとは思えないほどだった。
きっと、この子は周りの誰からも愛されて育ったのだろう。私みたいな地味でパッとしない女とはかけ離れている。本当は、こんなところで、卑怯な男に踏みつけられているべき存在じゃない。こんな天使みたいな子の身に、一体何が、どんな災難が起こって、ここへ堕ちてきたんだろう?
不思議に思った私の心の中が読めるかのように、優奈ちゃんは、ポツリポツリと身の上話を始めた。
彼女は、幼くしてお母さんを亡くして、お父さんと二人暮らしだった。お父さんは町工場を経営していて、そこは、昔から北斗物産の外注先だった。工場の経営は北斗物産からの受注に大部分依存していた。北斗物産が手を引けば、すぐに資金繰りに窮して銀行に工場や土地を取り上げられてしまう。優奈ちゃんのお父さんは、橘社長の要求を呑んで、一人娘に大学進学を諦めさせ、高卒で北斗物産に入社することを求めた。
「そんな、今どきそんな酷い話…」
「もちろん、こんな目にあっているとは、父は知りません。ただ、普通に会社員として、ここで働いていると、そう思っているんです。ほら、こんなのもありますから…」
彼女は、スマホで何かを検索すると、画面を私の方へ見せた。北斗物産のウェブサイトの、社員紹介ページだった。そこには、「多様性を尊ぶ職場環境、躍動する先輩社員達」と銘打って、高卒で入社した彼女のインタビュー記事が載っていた。リクルートスーツを着た優奈ちゃん。笑顔で写真に収まっている彼女だったけど、私にはその瞳の奥に抱えている悲しみが見えるようで、やりきれない。私は少女を犠牲しながら成り立っている、欺瞞だらけの大人の世界に許しがたい怒りを覚えた。
「でも、こんなの間違っているわ。ねぇ、今からでもお父さんに、打ち明けたらどうかな?むしろ、本当なら、警察に駆け込むべきだわ」
「でも、それって、摩耶さんの場合でも同じじゃないですか?」
「うっ…」
「できないんです。私が投げ出したら、お父さんも、工場のみんなも全部、ダメになっちゃうから。それに、私はもう……取り返しのつかないくらい、汚されて、しまったからっ、うぅぅぅぅ」
彼女の言葉は、最後まで紡がれる前に、嗚咽に流されてしまった。私は彼女を抱きしめた。彼女の髪に、肩に、私の涙も流れ落ちた。