「ま、摩耶…。見違えたね」
「へ、変、でしょうか…」
「いや、なんというか、色っぽいよ、すごく」
月曜日の朝八時、再び彼の部屋を訪れた私は、いつもの私とは、違っていた。濃紺色のアメリカンスリーブのカットソー。首元から布が広がっていくようなフォルムで、肩先が大胆に出ているし、胸の形もくっきりしていて、身体のシルエットが、そのまま出てしまうようなデザイン。それに、ミニ丈のフレアスカートを合わせている。普段は、スカートなら膝より短いものは絶対に履かなかったし、何より今日はストッキングを纏っていない生足だ。
二人が結ばれた夜。彼はありったけの言葉で私の身体を褒めてくれた。ふっくらした二の腕のこととか、太腿のこととか。全然自信のない箇所だったからとっても戸惑ったけど、どうやら彼は私みたいなむっちり体型の子が、嫌いじゃないらしい。だったら、とことんそれに応えたかった。
また、セミロングの髪も頭の後ろの高い位置でハーフアップにして、耳やうなじが見えるようにした。そのあたりに彼がいっぱいキスしてくれるんじゃないかと、そんな風に思ったからかな。
さらにいうと、メガネも置いてきた。
「目、見えてる?大丈夫なの?」
「はい、コンタクトにしてみました」
「絶対、その方がいい。摩耶…きれいだよ、信じられないくらい」
「あ、ありがとう、ございます」
既に身体の関係も持ったあとだけど、改めて会うと、言葉も変にぎこちなくなってしまうし、やっぱり緊張する。玄関で身を固くしている私を、添田さんがギュウと抱きしめてくれた。
私のお腹の辺りに、彼の固いものが当たっているのが分かる。思わず二人で目を合わせて笑ってしまった。
「あの…お仕事に、差し支えますよ」
「そ、そうだね。ん、うん。じゃあ、また後で。摩耶は、ゆっくりしてて。ちょっと古いけど、向こうにゲームとかもあるから」
彼は始業時間である八時半には彼のチームとのビデオ会議を控えている。映りこむとまずいので、私はキッチンで洗い物をしたり、お掃除や洗濯などをした。頼まれたわけではない。彼が働いている間に、自分だけ遊んでいるなんて、イヤだったから。
お昼前にはスーパーに行って食材の買い出しに行くと言うと、彼がクレジットカードを渡してくれた。
スーパーから彼の部屋への帰り道。まるで在宅勤務をする夫を持つ新妻になったような気分。私は一人で秘かに気持ちを高ぶらせていた。世間は新型ウィルスの恐怖で震撼しているというのに、私だけは、彼の秘密のシェルターに逃げ込んで守られている。ふとそんな気持ちにもなる。
こんなに幸せでいていいのだろうか、私だけ?だけど、今は、それを手放す気には全くなれない。一秒でも長く、彼と一緒にいたい。それだけ。それ以外には何も、本当に何も要らない。そのためだったら、この世界なんて、どうなったって構わない…。
お昼の献立は、メインがぶりの照り焼き。それに豚汁とポテトサラダも。一応、自分のレパートリーの中では自信のあるものを並べた。味見もしてみたけど、悪くない。彼の昼休みが始まるまで、あと十分。ちゃんと間に合った。
キッチンから、彼の横顔を覗く。インドネシアの現地スタッフとのビデオ会議中らしい。彼は帰国子女でもなく、英語は会社に入ってから頑張って覚えたという。ほれぼれするほど流暢、というわけではなく、日本語の鈍りは結構ある。だけど、その言葉に籠った熱意に、みんなが耳を傾け、胸を打たれる。
今日は、ウィルスの蔓延で弱音を吐いているスタッフを鼓舞している。現地では日本以上に状況は深刻らしい。会社を辞めて、田舎の故郷に戻りたいと訴えるスタッフを、どうやら最後には彼が思いとどまらせることに成功したようだ。
昼休みに十五分ほど食い込んでしまったが、無事会議は終った。私は、手料理を彼の仕事机を兼ねたダイニングテーブルに配膳した。
「お疲れ様です。大変でしたね。ごはん、食べてください」
「うん、ありがとう!わ、すごいじゃん。めちゃ身体によさそう、いっただきまーす」
さっきの会議中に見せた、頼り甲斐の塊のようなリーダーシップと、私だけに見せる子供みたいな反応とのギャップに、胸がキュンとなって、私は彼の背後から抱きついてしまった。
「お願いです、少しだけ、こうさせてください。ずっと、我慢していたんですから、私は」
キスをねだると、彼が応じてくれる。午前一杯、私も私なりに頑張った。そのご褒美をもらいたかった。
クチュクチュと大きな音を立てて、彼の唇をいただいた。他の誰にも渡したくない、そんな気持ちをたくさん込めながら、彼の舌を思いきり吸い上げて、自分の中に取り込む。今の私は、もう先週までの私とは全然違っている。
長いキスの後で、ようやく私が彼の唇を解放すると、
「あ、あれ、あのお昼ごはんを…」
彼が苦笑いをしながら言うので、二人して思わず吹き出してしまった。
午後七時には、添田さんは仕事を切り上げてくれた。いつもの彼だったら九時、十時まで残業するのが当たり前だけど。
「待ってくれて、ありがとう。もう終わったから」
彼がラップトップを閉じる。パタン、という音で私の胸は否応なく高まる。首輪を解かれた飼い犬がドッグランを駆けるかのごとく、私は添田さんの胸に飛び込んだ。しばらくハグをした後、彼が私をソファへと誘う。彼は自分の膝の上に、私を座らせた。
「重いですよ…」
優しく微笑みながら、彼が首を横に振ってくれる。ほんとは重いんだろうけど。
彼の左手は私の腰の辺りに添えられている。右手は膝から腿のあたりを撫でさすってくれる。優しく、というよりは挑発するような、妖しい期待を抱かせるような、そんな手つき。
「もう耳、赤くなってるよ」
たしかに、もう全身が、とくに顔面全体が火照っている。その自覚はあるけど、指摘されるとうんと恥ずかしくなる。俯いている私の耳を、彼が甘噛みしてきた。あっ、という声を上げるまもなく、彼の舌が耳の裏や、耳の中の襞をかき分けるように這う。
「ああっ、く、くすぐったいですっ」
「くすぐったい、だけ?」
こそばゆい時は身体が強張って、辛いんだけど、むしろ今は力が入らない、痺れたような感覚。感じてる、っていうのはそういうことなのか。
彼の両手が、閉じあわさった私の両膝をかき分ける。彼の右足のうえで、私の両足が割開かれる。ミニのスカートだから、簡単にまくれ上がって、大股が剥き出しになっているのが、眼に入った。だらしなくて、イヤらしいその様子に、顔を覆ってしまう。
「こんなにセクシーだったんだね」
指先が、膝から腿の辺りを伝い、ゆっくりとスカートをまくり上げながら、ついには脚の付根辺りまで到達した。
「ふふ、下着は、普通だったね」
「い、イヤだ……。もっと、大胆なのが良かったんですか?」
ほんとは、下着ももっと激しいのに挑戦しようかと、悩んだ。サンシャインシティのランジェリーショップに足を運んだのだけど、際どい下着を手に取っているうちに、恥ずかしくなって逃げ帰ってしまった。
結局、いつもどおり、大人しめの、フルバックのショーツを選んだ。
「そんなことないよ。摩耶らしいのが一番」
完全に露わになったショーツの、大事な部分を彼の中指が、こんにちは、というようにトントンとノックしてきた。ビクっと背中が仰け反る。
「感じてくれてるんだ。うれしいよ」
彼の囁き声が耳の中に流れこんでくる。私が気持ち良くなって、彼が喜んでくれる。もっと、もっと彼を喜ばせたい。ウットリとした気分で、自然と唇が彼の方に向く。
お昼は私が彼の唇を吸い上げたのだけど、今度は彼の方がすごく強引だった。逃がさない、というように両手で頭と顎を抑えつけながら、私の口の中に舌を挿し込んでくる。
私の口の中で二人の舌が絡まりあう。スーッと彼の舌が引いていくと、私はそれに追いすがるように舌を突き出した。所在無く、宙ぶらりんになった私の舌は彼の上下の唇に捉えられた。思いきり彼の口の中に、吸い込まれる。私の全存在が、彼の中に溶け込んでしまったような、心地よさだけが延々と続いた。
長いキスのあと、いよいよ彼が私の服を脱がしにかかった。
「えっと…ここで、ですか?」
ここはリビングのソファ。LEDのシーリングライトの直下で肌を晒すのは、さすがに恥ずかしい。ベッドに連れて行ってほしい、と目で訴えかけても、彼はそれを無視して、スカートのホックを外してしまい、さらに流れるような動作で私のカットソーも引き剥がしてしまった。
そう。エッチな雰囲気の時の添田さんは、いつもの添田さんじゃない。ちょっと強引なのだ。下着姿になった私は、灯りの下の自分の胸や股間を両手でカバーしながら、身を捩らせる。
「俺さ、摩耶の照れてるところ、大好きなんだ。ねぇ、立って、自分で脱いでみせてよ」
彼は、私を膝の上から降ろすと、自分の目の前に立たせた。
「そんな…添田さん、ひどい」
恨みっぽく言いながら彼に視線を向ける。彼はただ私の胸や腿、股間の辺りを見つめている。何も言わずに、ただ私の裸身が現れるのを待っている。いや、脱がないと、これから先はお預けだぞ、そう言っているようにも思える。
「もう、ほんとにSなんですね、こういうところ」
私は、ブラのホックに手をかけた。小さな金属と金属の引っかかりがふっ、と解かれると、私の胸も軽く弾む。彼の眼に一層火が灯ったような気がして、胸が高鳴る。
私が手を放すと、ぱさっ、という音を立ててブラは床に落ちた。
恥ずかしくて、腕で胸元を隠したい気持ちを、じっとこらえる。添田さんの視線が自分の胸に集まっている。恥ずかしさと誇らしさが交じり合った高揚感で、私は全身が粟立つのを感じた。
「下は?脱がないの?」
彼が、敢えて意地悪く言う。私を困らせることを愉しんでいるんだ。まるで自分はどっちでもいい、とでも言うような態度。
だけど、私は見た。彼のスラックス。股間の部分が思いきり窮屈そうに膨張しているのを。彼も、きっと私に襲い掛かりたいのを、必死で堪えている。そう思うと、二人で我慢の共同作業をしているような気分になってくる。
彼に命じられて、私は背中を、いや、お尻を彼の方に向けた。お尻を突き出す形で、フルバックのショーツを脱いでいく。私の恥ずかしい部分が、彼に向けてアピールしている。
「そのまま、両手を頭の後ろで組んで。それから、腰を振ってみて」
「え、ええっ…と、こ、これで、どうですか…」
言われた通りに腰を左右に振ると、お尻のお肉がプル、プルって揺れるのが自分でも分かって、ものすごく恥ずかしい。
添田さんがどんな表情をしているのか、それを確かめたいような、見たくないような…。
ふと、気配を感じる。いつまにか、彼が私のすぐ背後に立っていた。抱き寄せられて、彼と下半身が触れ合う。人肌のぬくもりから、彼がもう、上も下も全部脱ぎ捨てて全裸になっているのが分かる。なんだか、泣きたくなるほど嬉しかった。
彼は、手を伸ばしてダイニングチェアを引き寄せ、私の右足をその上に乗せた。
彼がしゃがみ込んで、下から見上げるような形で私のヴァギナと向き合った。
「い、いやっ、恥ずかしい、恥ずかしいです!」
煌煌とした灯りの下で、彼の舌が私にむしゃぶりついてきた。ジュル、ジュルジュルジュル、とはしたない音を立てながら、彼が私の蜜を吸いとる。
「やけに濡らしてるじゃん、どうしちゃったの?」
「そ、添田さんが、変なこと、させるから…」
「変なことって?」
「だから…」
裸になって、お尻を振って、それで興奮した…。添田さん、私にそう言わせようとしている。ほんとに意地悪な人…。言い淀んでいる間に、彼が再び口を私の蜜唇に口を寄せてきた。
彼の頭を何とか抑えて、引き離そうとするけど、簡単に払いのけられてしまう。更に、彼は手を私の腰骨をがっしりと掴む。今度は、クリトリスを狙われた。両手の親指で、周りの皮膚をグイっと押し開くようにすると、私の敏感な突起が、剥き出しになった。彼の舌先に、ツン、ツンと突かれるだけで、私はもう悲鳴を上げた。
「い、いぃぃぃっ、そこはっ、む、むうぅぅん」
下から上に、ペロン、と舐め上げたり、首を横に振りながら舌で左右にビンタしたり。正直に言って、クリトリスで自分を慰めたことは、これまでも何度もあった。だから、先週まで処女だったとはいえ、そこの感度だけは年相応に成熟している。やがて、彼の舌の動きの波長が、私の普段の指使いに酷似してくると、いよいよ耐えきれなくなってきた。イヤらしい声が出てしまうのを我慢しているうちに、息をするのも苦しくなってくる。
「…はぁ、はぁ、ふ、ふぅ…も、もう、いいじゃないですか!あの、もう、続きはベッドで、ねぇ、添田さん」
彼は、意味ありげに笑いながら、立ち上がって再び私を背後から抱きしめた。
「準備、いいよね」
「え、う、ウソ…」
彼の右手が、椅子の上に足の裏を乗せた私の腿をぎゅっと掴む。左手は、中指と人差し指で器用にラヴィアを寛げた。そうして、彼自身が迫ってきた。ゴムの感触がする。いつの間につけたのか。
「じゃあ、挿入れるよ」
「は、はい…あっ、でも、立ったまま、ですか」
「うん…。今日は、俺の好きにしたい、いいかな?」
「…はい、添田さんが、いいようにしてください…」
私は首を捩じって、彼の唇を求めた。舌が私の口内を、そしてペニスが私のヴァギナに侵入してきた。
「む、むふうぅぅぅぅぅん」
唇を合わせながら、声が出てしまう。だけど、この前のような痛みは、もうまるでない。ただ圧迫感で少し怖くなってしまっただけ。
彼の方も、前は私のことをケアしながらだったから大変だったろうけど、今日はもっと自分本位で楽しんでくれてる、そんな気がする。というのも、鼻息がすごく荒いのと、それと、私の膣の中でペニスをグリ、グリって押し付けてくるのが、何故か切なそうだったから。
「摩耶、いいよ。すごく。もう、死んでもいい」
「も、もぅ、なんですか、それ、大袈裟すぎます」
否定しながらも、私もそれに近い気持ちだ。繋がったまま、全身がアイスクリームみたいに溶けて、彼と私の境界が無くなってしまったらいいのに…。
