[あらすじ]
私の名前は、笠谷摩耶。派遣社員。派遣先の会社は例の新型ウィルス感染爆発の影響で全館閉鎖。契約の都合で、在宅勤務も認められず、一時休業状態に。ひそかに好意を寄せる男性社員から、自宅で仕事を手伝ってほしい、と言われてから、私の人生は大きく変わってしまった。

凌辱専業作家が描く、女性一人称作品。「拗らせ女子」が語る、甘く、切なく、狂おしい奈落。

2026.01.11 永井 亮
女性一人称、ハード、処女、拗らせ
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今まで一度も降りたことがない、鶯谷駅の改札口を出た。ラブホテル街だというのは知っていた。数えきれないほどの極彩色のネオンなら、京浜東北線の車窓越しに漫然と眺めていたが、それは今まではまるで縁のなかった世界だ。
 駅前の様子は、思っていたのと少し違っていた。どことなく薄暗く、ぎらついた感じよりも、不気味さの方が強い。そうか、新型ウィルスのせいで営業自粛、閉館しているホテルが多いのだろう。
線路沿いの薄暗い通りを、笹山課長から渡された名刺の裏の地図を見ながら歩いていると、不安で膝が震えた。「ゆっくり話ができるところ」なんて言葉、信じられるわけがない。今晩、あの男は私の身体を求めてくる。そして、私はそれを拒否することができない…。

指定されたホテル、「蜘蜘蛛巣城」はまるで刑務所のような外観をしていた。窓ガラスには、鉄格子がはめられている。植え込みの中の蒼白いフットライトが外壁を照らしている。まともなカップルなら、まず選ばないような気味の悪いホテルだ。
入り口の前で、あの男の到着を待つ。人目が気になるが、一人で中に入るのも恐ろしい。腕時計を確認しては、周りをキョロキョロと見回す。笹山課長は、未だ現れない。
そうしているうちに突然、三十歳くらいの、作業員風の男二人に声をかけられて、身体が凍り付いた。
「ねえちゃん、見ない顔だね?客にすっぽかされたかい?いくらなの?」
「えっ⁉…な、なんですか」
「ん?闇営業のデリじゃないの?」
「あ、もしかして立ちんぼじゃないの?買ってやるから値段言えって。安くしとけよ、なぁ」
 言葉の意味が呑み込めなかった。だけど、男達のニヤケ顔と、何やらポケットに突っ込んだ手の怪しい動きが目に入って、ようやく想像がついた。この二人組は、どうやら私のことを何かの風俗嬢だと決めつけているのだ。
…そういえば、ネットの記事で見たことがある。風俗店が休業に追い込まれて、生活に困った女性達が、路上で身を売り始めたと。東京の他のホテル街は軒並み閉鎖されているけれど、この鶯谷だけはまだ半数程度は営業しているので、そうした女性が集まっている、と…。
「…ち、違います」
 身の危険を感じて、私は駅の方に駆け出した。だけど、大柄な男に行く手を遮られた。後方からも、もう一人の男に肩を掴まれ、抱き寄せられた。
「何するんですか、放して!警察呼びますよ!」
「はははっ、立ちんぼが警察だってよ。君、これが違法だって分かってるの?」
 思い出した。路上で身を売る女性が警察の取り締まりの対象になっている。立場の弱い女性が、質の悪い男性客に暴行されても、泣き寝入りしている、と報道番組で特集されていたじゃないか…。
「よく見ると、君、可愛いじゃん」
「ほんとだな、清純そうでいいじゃん、かなり上物だぜこりゃ。しっかし、こんな真面目そうな子が立ちんぼやってるなんて世も末だな」
「やめて、放して、違うんです、わたし、そんなんじゃない!」
後ろから羽交い絞めにされて、さらに頬や耳に軽いキスまでされた。必死で振り払おうとしても、全然逃げられない。
「ほら、値段言えって。言わないとこのデカ乳、モミモミしちゃうぞ」
目の前の男が、いやらしく両手の指を閉じたり開いたりしている。指が、少しずつ、私の胸元に近づいてくる。路上で取り押さえられて、胸を触られる…
「誰か、誰か助けてください!だれか、だれかっ!」
私は、絶叫していた。
「おーい、摩耶ちゃん、この人たちは誰だい?」
目の前の男の肩越しに、笹山課長の姿が見えた。私を羽交い絞めにしている男の両手の力が少し抜けるのを感じて、私は拘束を解き、逃げ出した。咄嗟に、笹山課長の方の後ろに身を隠した。
「ちっ、なんだよ先客かよ」
「デリならデリだって言えよな、紛らわしい」
二人組は、悪態をつきながら暗がりの方へと消えていった…。

「節操のない雌猫ちゃんだなぁ、俺のこと待ちきれなくて、あんな男達にちょっかい出すなんて」
「…そ、そんなはずないじゃないですか、言いがかりです!あの人たちが、無理やり…」
「くくく、言い訳はいいから。待たせて悪かったよ。さ、早く中にはいろう」
 私は、薄暗いホテルの入り口に続く階段を、笹山課長に手を引かれて昇って行く。あぁ、もう、戻れない…。添田さん、助けて、私、汚される…。

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