[あらすじ]
私の名前は、笠谷摩耶。派遣社員。派遣先の会社は例の新型ウィルス感染爆発の影響で全館閉鎖。契約の都合で、在宅勤務も認められず、一時休業状態に。ひそかに好意を寄せる男性社員から、自宅で仕事を手伝ってほしい、と言われてから、私の人生は大きく変わってしまった。

凌辱専業作家が描く、女性一人称作品。「拗らせ女子」が語る、甘く、切なく、狂おしい奈落。

2026.01.11 永井 亮
女性一人称、ハード、処女、拗らせ
読者タグ: なし

月曜日。重い足取りで、出勤した。京浜東北線の車中は、いつもどおりとはいかないものの、ある程度乗客が戻っていて、席はほぼ全て埋まっている。身体を預けた車窓から、鶯谷の街が目に入ると、動悸がしてきた…。

忌まわしい監獄ホテルから解放されて、家に帰り着いたのは、もう昼過ぎだった。両親はいなかった。結婚記念日で、北海道に二泊三日の旅行に行っているのを忘れていた。正直、ホッとした。ひどい顔をしているところを、問い詰められると思って身構えていたから。
結婚三十周年の夫婦。平凡などこにでもいるサラリーマンだけど、優しい父。母は、安月給だなんだと愚痴をこぼすことも多いけど、ほんとは父を愛している。私にも、そんな家庭を築く日が、来てくれるのだろうか。
添田さんのような、キラキラのエリート男性になんか手を出したから。身の丈に合わない相手を好きになってしまったから、こんなことになった。そんな卑屈な考えで、頭がいっぱいになった。週末は、一人きりの自宅で、ほとんどを寝込んで過ごした。
 よほど、会社を辞めようかと逡巡した。とりあえず、月曜日は体調不良といって、休んでしまおう。でも、笹山課長や、西村、前島らに連絡するのは、躊躇われた。派遣会社経由で連絡しようか…。
 日曜日の夜。スマホに着信があった。添田さんからかと思って急いで手に取る。だけど発信元は、笹山課長だった。
「おう、調子はどうだい。俺の濃いエキスを吸って元気モリモリか?」
「…なんの用ですか」
「俺たちの熱い夜の記録なんだけどな、ちゃんと加工ができたから、一応報告しておこうかと思ってね」
「か、勝手になさってください、知りません」
 本当は気が気でなかった。あんなものを誰かに見せられたら、それこそ破滅だ。でも、動揺しているところを見せれば、その分付け込まれる。必死で虚勢を張った。
「会社のファイルサーバーの共有フォルダに保存しておいたから、見てくれよ」
「えっ、か、会社のですって!き、気でも狂ったんですか!」
「ふふ、いっただろ、俺の顔や声はきれいに除去してるからな。代わりに摩耶の顔とオマンコはバッチリ4k画質で写ってるぞ。ほら、今パソコンで見てみろよ」
「…私には、パソコン、支給されてませんから」
「おお、おお、そうだったな、ハケンさんには在宅勤務はないもんな。じゃ、明日の朝までのお楽しみだな」
「やめて、消してください、今すぐ!誰かが見ていたら、どうするんですかっ」
 平静を装うことは、もう不可能だった。取り乱して、叫んでしまった。
「いやだね。自分で明日消しに来いよ。まあ、消したところで、いくらでも複製できるんだけどな、はははは」
 こうして、私は、月曜日も出社しないわけにはいかなくなった。

 誰よりも早く、オフィスについた。午前六時半。フロアには誰もいない。制服への着替えも後回しで、私服のままデスクに直行した。起動したパソコンで、一課の共有フォルダを探る。動画ファイルだから、容量は極端に大きいはず。素早くファイルをサイズ順に並び変えると、すぐに問題の「それ」の在りかは見つかった。見たくはなかった。見たいはずがない。この動画は、私を縛る首輪と同じだ。そしてその手綱は、あの男に握られている。それでも、見ないわけにはいかなかった。
 
動画は、私の顔面のアップから始まった。「寝バック」の姿勢で犯されているところだ。私の両手が拘束されているところは、映像からは見て取れない。ただ、甘ったるい声を上げて、頬を赤くして、口を半開きにする淫女の姿だけがあった。
 次は、反対に私が仰向けの姿勢で、男の身体の上に乗せられ、下から突き上げられているシーンだ。男の手が私の両胸を揉みこんだり、乳首を摘まんだりするたびに、私は艶めかしく身体をくねらせている。私、こんなにイヤらしい姿を…。男の顔は、私の上体に隠れて、まったく見えない。またしても、私だけが、カメラの前で晒されている。
 まだまだ動画は続くけど、もう耐えらなくなって停止してしまった。完全に抹消することはできないにしても、こんなものが会社のサーバーに残っていたら、生きた心地がしない。それに何より、このフォルダには、出張先でも添田さんがアクセスできるのだ。とにかく、こんなところに存在していいものではない。
デリートキーでそれを葬り去ろうとした私に、コンピューターが残酷な返答を返した。

 
このファイルに対する編集権限がありません。管理者に連絡してください。

 なんということだろう。私には、この動画に対して、閲覧権限しか与えられていない。削除してしまうことが認められていないんだ。
時刻は、六時四十五分。まだ、社員が出社するには早い。課長のPCを起動して、削除する?それしかない。でも、パスワードは?
キーボードの裏や、モニタの裏、手あたり次第に探し回った。付箋などがあるのではと思うけど、見つからない。時間だけが過ぎていく。どうしよう、このままじゃ、間に合わない…。
 ふと、デスクの脇に手帳が目に入った。瞬時にそれを掴み取った。見開きのページに、小さな文字で、

 PW GREATBOSS

 という殴り書きが見つかった。これだ、これがパスワードだ!そうに決まっている!
私は課長のPCの起動画面に急いで、これらのアルファベットを打ち込んだ。だが、何故かエラーメッセージが帰ってくる。大文字小文字の関係だろうか?先頭だけ大文字?あるいはすべて小文字?全部試したけど、起動できない。ああ、そんな、どうして、どうして動いてくれないの⁉
 気が付くと、PCの画面はブルーから真っ黒に転じて、強制的にシャットダウンしてしまった。呆然と立ち尽くした私は、背後から近づいてくる者の気配に気づいていなかった。
「…はぁ、はぁ、はぁ……そ、そこの君、一体何をしているんだ!」
でっぷりと太った、天然パーマの男が息を切らしていた。首からかけた社員証には、

IT部 大隈

 とあった。ITの人?まさか、私が、課長のPCを操作しようとしていることが、検知されてしまったの…?
ああ、もう、終わりだ。何もかもが白日の下にさらされてしまう。私も、添田さんも、終わりだ。私は、気を失って、その場に倒れこんでしまった。

Xでポスト

このエピソードの感想を書く

まだ感想はありません。