カーテンから差し込む朝の光で目覚めると、私は添田さんの胸の上に頬を乗せていた。ここは、彼のマンション。私たちは、裸のまま、シーツにくるまっていた。
私や橘社長が帰国してから遅れること三週間。彼はようやく日本に戻ってきた。私は、二週間と言われた「刑期」を終えて、原油開発部一課に戻った。しかも、派遣社員ではなく、西村や前島と同じ、一般職の正社員として…
アメリカで作られた抗ウィルス特効薬が、数週間のうちに日本にも届くというニュースが入ってきて、街は少し以前の活気を取り戻しつつあった。北斗物産も、七、八割程度の社員は出社するようになった。初夏の訪れとともに、世界と日本を震撼させたパンデミックも、もう終わり、そんな緩んだ空気が流れ始めていた。
オフィスで恥ずかしい制服を着せられることは、もうなくなった。でも、あの時期のことを覚えている男性達からは、時折いやらしい視線で見られる。いや、それだけじゃなくて、ひどいことを、私が聞こえるところで言われることもある。変態衣装はどこに行ったんだ、出し惜しみするなよ、とか。
でも、社長室での日々や、ジャカルタで受けた仕打ちに比べたら、そんなことくらい、なんともなかった。ずっと無視していると、そのうち誰も何も言ってこなくなった。中年男性達の関心は、三か月遅れで入社することになった新卒の女子社員の方へ移っていったので、誰も私の噂をすることもなくなった。私は元の、メガネにマスクの地味女、透明な存在に戻った。ただ一人、添田さんにだけ、素顔を見てもらえれば、それでいいんだから、何も不満はなかった。
「痩せちゃったな、添田さん…」
寝息を立てながら眠る彼の脇腹や、胸、肩をそっと撫でる。以前から細身だった彼だけど、ジャカルタから帰ってきて、さらに肉が落ちていた。想像もつかないほど、辛い日々を送っていたんだろうな。
昨日は金曜日。彼が帰国してから初めて、仕事帰りに大井町のお部屋にお邪魔した。
私たち二人は、夕食を取ることもせず、部屋に入るなり、ベッドに飛び込んで、愛し合った。彼に最後に抱かれてから今まで、数えきれないほど汚された私の身体。彼のそれと、そこから放たれる温かい愛情で、自分を洗い流したかった。一度だけじゃなくて、何度も何度も。
だけど、添田さん、疲労がたまりすぎていたのかな。一度果てた後、寝息を立ててそのまま眠ってしまった。そんな彼の寝顔を見ているだけでも、今は十分だった。彼が無事で、私の傍にいる。ただそれだけで、生きている実感が湧いてくる。どんなに辛い毎日が待っていても…
彼を起こさないように、そっと洋服も着て、顔も洗った。
「添田さん、私、もう行きますね」
小さく呟いて、彼の頬にキスをした。私は立ち上がった。
玄関でパンプスを履いていると、後ろから彼の声がした。
「摩耶、待って」
振り返ると、何も着るものを纏っていない、裸の彼が立っていた。無駄な肉が一切なくて、薄い筋肉の張り詰めた、凛々しい男性美。私は改めて胸が苦しくなった。
「こんな格好で、ごめん。でも、今日、どうしても渡したいものがあるんだ」
「えっ?」