土曜日の早朝。里穂は体育教官室で、渡された水着に着替えさせられた。
「こ、こんな水着で、生徒の前に立てませんっ!」
それは、競技としての水泳にはまるで似つかわしくない、いわゆる「極小ビキニ」と呼ばれる種類のものだった。真っ白な上下のセットは、過激なグラビア動画などでしかお目にかかることがないレベルの露出度だ。胸元を覆うのは、幼児の手の平ほどの大きさの布地だから、形よく膨らんだ双乳は上からも下からも、その輪郭が覗いている。
さらに里穂を困らせたのは、下半身のブーメランパンツの方だ。Tバックの部分はきつく尻割れに食い込んでいるので、臀部の肉はほぼ全て露わになっている。そして、前の方はというと、デルタ部分を覆う生地は極端に小さい。ほとんど名刺一枚くらいの面積だ。里穂のアンダーヘアはかなり薄い方だったが、それでも無理やり収めない限り陰毛がはみ出てしまいそうだ。
「無理です、とても、こんな格好では…」
「口答えするんじゃない!嫌なら素っ裸だぞ!」
森田にすごまれ、里穂は涙ながらに訴えた。
「ほんとに、生徒達とは、これ以上関係を持ちたくないんです。お願いですから、彼らに、変なことはさせないで、絶対に。約束してください」
「ふん、変なことねぇ。お前の方こそ、マン汁垂れ流して生徒を誘うなよ。さぁ、もう集合時間だ、いくぞ」
この日はプール横の更衣室ではなく、体育教官室で着替えさせられた。それはすなわち、里穂はこの破廉恥な水着姿で、プールのあるエリアまで館内歩かされることを意味した。ほんの三十秒も歩けばつく距離だが、乳首と陰部以外のほぼ全てを晒した姿では、まるで永遠にも感じられる。土曜日とはいえ、今日の週末特訓に参加する水泳部員と鉢合わせするのではないかと思うと、案の定だった。
「おい、マジかよあれ!」
遠くで男子生徒達が騒ぐ声が聞こえた。振り返ると、登校してきた水泳部の一年生部員達だ。先日参加していた2名に加えて、新たに、四名、計六名いるようだ。
(ああ、そんな、他にもいたの…)
彼らは、典型的な幽霊部員達だったが、里穂の噂を聞きつけ、現金なことに久しぶりに出席してきたのだった。
「おい、あの水着で泳ぐつもりかな?」
「先生は、平泳ぎを練習しているみたいだぜ」
「え、平泳ぎだって!じゃあ、後ろから着いていったら、あそこの具まで見えるんじゃないか!」
「ああ、ポロリ狙えるぜ!マジ楽しみだわ、オレ!」
本人の耳に聞こえてもお構いなしだ。まるで教師に対するセリフとは思えないほど露骨な言葉が、胸に突き刺さる。だが、こんな変態的な水着を着ていては、注意する気になどとてもなれない。教師としての威厳など、完全に吹き飛ばしてしまうほどの破廉恥さなのだ。
一時しのぎに過ぎないとはわかっているが、とにかく生徒達の視界から身を隠したい。里穂は駆け足でプールのあるフロアへと続く階段を上った。狭小な水着のブラは胸を固定する機能に乏しい。一歩ごとに双球が勢いよく弾み、危うく乳首が顔を出しそうになる。
下半身に目をやれば、水着から数本の陰毛が飛び出しているのが視認できた。何とか水着の位置を手でずらして収めようとするが、歩く度に少しずつずれて、またはみ出てしまう。
焦りで顔面蒼白になった里穂に、声をかけてくるものがあった。森田だった。
「生徒の前でそんなふうに水着を直したりするんじゃないぞ、みっともない。堂々としていれば、ちょっと乳首やオケケがはみ出ていたって、教師としての威厳は保てるものさ、ははははは!」
身勝手なことを言う森田に怒りがこみ上げるが、下手に機嫌を損ねてしまえば、この男は報復として生徒達をけしかけてくるかもしれない。
(ああ、言うとおりに、するしかないんだわ…)
プールサイドに、六名の一年生部員、森田、そして里穂が集合した。部員たちは、副顧問の破廉恥な水着姿を、目を輝かせながら見つめている。当の里穂本人が、恥ずかしさのあまり、生徒たちの顔を正視することもままならず、じっと俯いているので、部員たちは遠慮なく里穂を視姦できた。すると、先日の部活にも出席していた部員が口を開いた。
「華谷先生、何その水着?前の競泳用も、なかなかだったけど、今日のは、なんていうか、ギリギリすぎないかな?」
「うっ…そ、そうかしら。この前の水着は、ほ、ほら急な話だったから、学校にあったのを借りたんだけど、今日は、お、お家にあったのをも、持ってきたの…」
「へぇ、じゃあ私物なんだ、すごい趣味してるんだね!」
(ああ、そんなはずないじゃない。脅されて、こんな水着を着せられているのよ。分かって…)
すぐ隣にニヤけ顔の森田がいるのだから、弁明しようにもできない。困ったような表情を浮かべながら、里穂は言葉に窮している。すると、一人の生徒が里穂をさらに追い詰めた。
「あのぉ、華谷先生って、B組の純平のお姉ちゃんなんですよね?そのぉ、純平は知ってるんですかぁ?先生が、くくくっく、なんというか、こういうエロい水着姿、俺たちに見せてくれてること?」
「そっ、そんな言い方は…」
思わず森田の方へ助けを求める視線を送るも、ニヤニヤとした不快な笑みが返ってくるばかりだ。
この生徒は、名前を兵藤といい、どうやら純平のクラスメイトらしい。ひょうきんな性格でクラスの人気者、冗談や軽口をたたいて級友たちから笑いをとるようなムードメーカータイプだが、この状況では、里穂にとっては全くありがたくない存在だ。
「兵藤、お前先生に向かってその言い草はなんだ?何がエロいんだよ、ええ?」
「いやだって森田先生、こんなの着て泳いだら、ふふふ、どうなります、普通に考えて、その、アウトじゃないですか?ほら、大事な部分がカミングアウトしちゃいますよ、はははは!」
里穂は、自分の水着姿をめぐって交わされるこの軽口に耳を覆いたくなる。
「遅れてごめんなさい、いま来たっす」
集合時間からの五分遅刻で、雄星と宗介が到着した。
「なにやってんだ、お前ら!たるんでる!一年坊主たちももう全員集合してるんだぞ。さ、さっさと準備体操だ。お、そうだ、今日は里穂先生に体操の掛け声をやってもらうことにするぞ。さ、先生、まずはジャンプからだ」
「…体操、は、はじめます、イチ、ニ、サン、シ…」
怯えたような表情を浮かべながら、里穂がぎこちない所作でジャンプを始めた。体操の件は、昨日森田から命じられていたので覚悟はしていた。だが、こんなに面積の小さい水着を着用させられるとは思っていなかった。これでは、少し跳ねるだけでも、乳首が露出しかねない。胸元を隠すことは、森田から固く禁じられているが、さりとて八名の生徒の前で、可憐な薄桃色を晒すわけにはいかない。自然と、動きは小さく、ぎこちなくなる。
「里穂先生、ダメですよそんな調子じゃあ。泳ぎはダメでも、せめて体操くらいは生徒たちの見本にならないと!ほら、いっちに、いっちに!」
森田は里穂の脇の下に手を入れてはそのまま身体ごと持ち上げた。生徒たちの目の前で、裸同然の水着姿の身体に触れられるのは、たまらなく心細い。
「わ、わかりました、ちゃんとしますから…」
里穂は、要求どおり、大きくジャンプを始めた。すると、プルリ、プルリと揺れる双乳が小さな水着の中を跳ねる。生徒達がざわつく。
「イケ、出ろ!」
「そら、もう少しだ!」
そんな無遠慮な掛け声まで聞こえてきて、里穂は泣きたくなる。
前屈運動から上半身を起こした弾みで、それは起こってしまった。右側の水着が大きくずれさがり、乳首の上半分くらいが顔を出してしまったのだ。兵藤が、囃し立てた。
「ワォ、ハロー、ニップルちゃん!」
兵藤がユーモラスに叫ぶと、他の生徒達も歓声を上げた。
(ああ、もう…死にたい…)
生徒たちの前で、身体を見世物にされる辛さに、里穂は涙が込み上げてきた。
体操は、後半に差し掛かった。屈伸運動から伸脚に移る段階にきて、里穂は逡巡した。深く伸脚姿勢をとったとき、この心細いビキニがどうなってしまうのか。それを思うと、恐ろしくて実行に移せない。
「先生、次だよ、次!」
「早く脚広げてよ、ガバっとさぁ!」
おどおどと立ち尽くすばかりの里穂に、生徒達から容赦ない罵声が飛ぶ。その野蛮さは、進学校の生徒とは思えない。
「やれやれ、世話が焼けますなぁ」
背後から森田が強引に自分の脚を里穂の両脚に割り込ませ、強制的に里穂に伸脚の姿勢を強いた。
「そ、そんな無理にしないで、ダメ!」
水着は割れ目に痛いほど食い込んだ。水着の上に浮かぶくっきりとした肉割れを、生徒達は無言で凝視していた。
