「チンタラしてんと、早う、パンティ脱げや、早う!」
「む、無茶を言わないでください、他のお客様もいるんです、それに主人も……」
白を基調とした明るいヘアサロンの店内。都会的な店の雰囲気にまるで似合わないそのてっぺん禿げの中年男性は、スタイリングチェアにふんぞり返りながら、傍らに立つ美容師の弥穂に、破廉恥な要求を繰り返している。
舌打ちと貧乏ゆすりで大袈裟に苛立ちを表現しながら、圧をかけてくるが、弥穂はなおも要求に応じない。揺さぶりをかけるべく、男はポケットからスマートフォンを取り出し、眼前の鏡台に立てかけた。
「どや、ワテとお前の熱っついセックスシーンや。この動画、旦那に見てもらいたいんか?ええ?」
「うぅ、それは……お願いですから、しまって、しまってください……」
スマホの画面の中では、裸身の女が、騎乗位で男に跨り、一心不乱に腰を振り乱している。その下には、目の前にいるこの肥満男が醜悪な笑みを浮かべながら、時折腰を真上に突き上げている。
音声こそオフにしているものの、髪を振り乱しながらグラインド運動にふけるその女が、感極まった様子で快感を叫んでいることは想像に難くない。浅ましすぎるその様が、つい数週間前の自らの姿であることを認め、弥穂は消え入りそうなほどにか細い声で許しを請う。
音量ボタンに男の手がかかった。女の嬌声が、耳を澄ませばわずかに聞き取れるほどのボリュームで、微かに零れた。弥穂は思わず男の手を制止しながら、ついには屈服した。
「分かりました、言うとおりにしますから、どうかお店では……あの人の前では……」
膝丈のタイトスカートの中に震える手を差し入れる。夫の零士は、隣の席で若い女性のパーマを巻いている。ちょうど、男の巨体が、夫の視線から自らの下半身を遮ってくれている。だが、すぐ後ろを振り返れば、待合席で待機している若い女性の二人組がいる。おしゃべりに夢中の様子だが、もし彼女らが視線をこちら側、店の奥へ目を向けたら?と思うと、不安でたまらない。しかし、グズグズしていれば自分の喘ぎ声が店内に響き渡ってしまう。もう、迷っている暇はない。(やるしか、無いのよ……)
奥歯を食いしばって恥辱に耐えながら、弥穂はスカートの中に手を入れ、グイ、グイとパンティを引きずり下ろした。
純白の布切れがようやく足首から抜かれた。男はすっかり調子づいて
「おう、おう、ほんまに脱ぎよったで。中はもうなんにも穿いてないんやろうな?めくっておケケ見せてみぃ!」
とまで言い出す始末だ。
弥穂は、タイトスカートをはいてきたことを後悔した。ピッタリと腰回りに張り付いたそれは、前だけをめくり上げることは出来ない。男に下腹部を晒すには、下半身全体を露出しないわけにはいかない。半べそをかきながら、弥穂は命令に従う。
「しっかし、いつみてもキレイな生え方やなぁ、これ、やっぱり整えとるんかぁ?カリスマ美容師の旦那にカットしてもらっとるんやろ、なぁ?」
「し、知りません……。ねぇ、もう、こ、これで、もうこれでいいでしょう?」
羞恥にこらえきれず、ずり上げたスカートを元に戻そうとした矢先、背後で「きゃあ!」という小さな悲鳴が聞こえた。恐る恐る振り返ると、丸出しにされた自らの双臀を、食い入るように見つめる女性客二人が視界に入った。(ああ、そんな!お客様にまで……)
「なにこれ、信じらんない!」
「ねぇ、もう行こ、ヤバいとこだよ、ここ」
女性客二人は、こんな怪しい店に関わりたくないとばかり、退散してしまった。
「ん、どうした?」
夫の零士が、弥穂の方へ近づきながら、様子をうかがいに来た。
「あ、あの、急に用が出来たから、き、今日はキャンセルしたいって……」
苦し紛れに、弥穂は取り繕うと、零士はそれ以上追求せず、パーマの準備に奥の席へ戻っていった。肥満体の男は、笑いをこらえきれないといった様子で、口を押えているが、目は陰湿な喜色に満ちている。
「流石は浮気妻や。嘘が上手やなぁ」
「ああ、なんということを……」
「あれぐらいの年の女いうたら、一番おしゃべりやからなぁ。尻丸出しの美人美容師がおるってすぐ評判になるんちゃうか。これから大繁盛間違いなしや、よかったやないか、はははは!」
男の悪趣味なユーモアに、弥穂は血の気が引いていく。
二人の女性客と入れ替わりに、今度は大学生くらいの男子二名が入店してきた。そのうちの一人の顔を見るや、弥穂はカッと目を見開いて、思わず口元を覆った。
「やぁ、弥穂さん、予約してないけど、大丈夫かな?大学の友達も、一人連れてきたんだ」
「と、時彦君……い、いらっしゃい……」
平静を装いながら、弥穂はカウンターのパソコンで次の時間の空き具合を調べるふりをする(さきほどの女性客が帰ってしまった以上、空きがあるのは明らかだが、少しでも冷静になる時間が欲しかった)
「だ、大丈夫みたいだから、そこに座って待っててください。上着だけ、お預かりします」
すると、時彦はブルゾンを脱がせてくる弥穂にだけ聞こえるような小声で、嫌味たっぷりにささやきかけた。
「濃厚サービス期待してるよ?ふふ、楽しみだなぁ」
弥穂は、時彦の顔を直視できず、視線を下方へ泳がせている。ふいに、二人の男子が、共にスウェット素材のズボンにはっきりとテントを張っているのが目に入り、ひどく狼狽えた。
「僕はしばらく様子見させてもらうよ。この奥さんがどれくらい凄いテクニックがあるのか、見てからお願いすることにする」
『テクニック』という言葉に、妙に強いアクセントを加えて、時彦の連れは言う。そういいながら、ポケットに突っ込んだ右手がもぞもぞとうごめいている。この明るい店内で、にやけ顔を浮かべながら堂々とペニスを弄んでいるのだ。
時彦は、このサロンが入居している建物のオーナー、筑摩夫妻の一人息子だった。弥穂は、このオーナー夫妻に、金銭的な負い目から身体を弄ばれており、ついには息子の時彦とまで肉体関係を結ばされていた。
筑摩夫人に命じられ時彦の部屋を訪問させられたのが、つい一週間前の今日だった。弥穂は時彦に組み敷かれ、一人暮らしの部屋の浴室の中で、若いペニスで貫かれたのだった。
「ああ、ご主人にも見せてあげたかったよ、先週の僕たちがどんなに熱く燃えてたかをさ!」
「……もう、いい加減にして……」
ネチネチと耳元に荒い鼻息交じりの囁きを吹き込んでくる若者のペースに弥穂はすっかり翻弄されている。
「いつまで待たせんねん、早うこっちこんかい!」
「は、はい、申し訳ありません!」
慌てて弥穂は肥満男のもとへ戻り、中断していたヘアカットの続きを始めた。
男は、この界隈でドラッグストアの店舗を複数経営しており、名前を鴻上といい、筑摩の友人だった。切迫した金銭事情を抱えていた弥穂は、筑摩に命じられるがまま、半ば強制的に鴻上を含む数人の資産家仲間に対して売春行為を強いられていたのだ。
夫の零士は、女性客にパーマ液をしみ込ませる間、また別の女性客のカットやシャンプーで忙しく立ち回っている。零士が、奥のシャンプースペースへ消えるや否や、鴻上の左手が強引に弥穂のスカートに潜りこむ。すでにパンティは奪われており、ごつごつとした中指が、いきなり肉溝に突き立てられた。
「ひぃっ……!」
「なんや、まだなぁんにも触ってへんのに、もうぐっしょり濡らしとるやないか」
「そ、そんな、ありえません」
ならこれでどうだ、とばかりに、鴻上の中指が、膣内を撹拌する。クチュ、ヌチュという水音が店内に響く。
「もう、よしてください。聞こえてしまいます……」
「ほな、潔く認めたらどうや?こう言わんかい」
鴻上は、手に持ったスマホを弥穂に突き付けた。画面に表示された台詞に、弥穂は思わず目を背けた。
「言うまで、続けるぞぉ、ほれ、ほれ」
鴻上の指は、弥穂のGスポットをロックオンし、小刻みな振動を加え始めた。膝ががくがく震え、立っているのも難しくなってくる。(このままされたら、大変なことに……)弥穂は音を上げた。
「弥穂は、わ、鴻上様のお顔を、拝見するだけで、お、オマンコから、おつゆが、湧き出てきます……うぅぅ」
「へぇ!そうかいなぁ……しっかし、ほんまにエロぃのぉ」
その後も、鴻上は零士の目を盗んでは、施術中の弥穂の体をまさぐり続けた。妨害行為を受けながらの施術は通常の時間の倍近くかかってしまっており、時折零士から心配そうなまなざしを感じる。弥穂の胸はキュウと締め付けられるように痛んだ。
鴻上は帰り際に、さらに絶望的な事実を突きつけた。
「今日は忙しぃなるでぇ。予約状況確認してみ。『筑摩会』のメンバー総出で奥さんをサポートしようってことになっとるからなぁ。これから夜まで、奥さん指名の予約でびっしりやろ」
恐る恐るパソコンの予約画面を見ると、見覚えのある名前が並んでいる。
税理士の三島、内科医の須藤、そして自分たち夫婦を地獄に追い込んだ張本人である下村真仁。さらには鴻上の子分格の豊島までもが名を連ねている。いずれも、家主である筑摩の一味で、自分の秘奥や口腔におぞましい白濁を浴びせた男達だ。自分に覆いかぶさったこれら男達の荒い鼻息や、口臭が蘇ってくるようで、弥穂は吐き気を催した。店内で、しかも夫もいるこの小さな空間で、これら好色漢の相手をしなければならない。弥穂は、焦燥のあまり、顔面を硬直させている。
「ほれ、見てみい、外。待ちきれんでもう集合しとるわ」
鴻上が店のエントランスの方を指さす。全面ガラス張りのその先を見遣ると、三島と須藤、豊島がこちらを覗き込んできているではないか。予約の時刻までには、まだ二時間以上あるというのに。先客達が弥穂に仕掛けるセクハラの様をじっくり見物しようというのか。だらしなく口を半開きにして、色欲に呆けた表情を隠しもしない。
解放感あふれる全面ガラス張りの入り口は、弥穂のこだわりだったが、今となってはそれが呪わしく思える。弥穂は、天を仰ぐと、そのまま卒倒しそうになる。
「おっと、弥穂さん大丈夫かい」
崩れ落ちそうになる弥穂を、時彦が両腕で支えた。親切を装いながらも、どさくさに紛れて腰から尻にかけてねっとりとした手つきを這わせるのを忘れない。さらには、ピンク色のニットセーターの背中に手を回し、「少し楽にしてあげるよ」といいながら、器用な手つきで布越しにブラホックを外してしまった。
「今日はどんなの着けているの?ふふふ、あとで、外してプレゼントしてもらうからね」
「あぁ、なんてことを……」
零士や、零士の対応している一般客に気づかれまいと、弥穂の抵抗はあくまで弱々しい。この調子だと、淫鬼達は好き放題に狼藉に及ぶだろう。これから、夫との愛の証というべきこのサロンで、延々と色責めを仕掛けられるのだ。
ここ数か月、無数の男達に犯しぬかれた自らの身体は、変態たちの手管にすっかり順応してしまっている。悪辣な責めを想像するだけで背中にゾクっと寒気が走る。肌は、恐怖に粟立つ。だが、不思議なことに、ヴァギナだけがまるで待ち焦がれるように妖しい律動をはじめ、ねっとりとした樹液を分泌し始めているではないか。弥穂は激しい自己嫌悪に駆られた。
(あぁ、私、なんて愚かで、浅ましいの。どうして、こんなことになる前に、こんな男達の言いなりになる前に、戦えなかったの。零士さん、ごめんなさい……)
弥穂は、固く目を閉じ、蟻地獄にどっぷりと両足を絡めとられた自らの境遇を自覚しながら、どこで自分は過ちを犯したのか、どこで、どうすればこのような地獄に墜ちずに済んだのだろう、と想いを巡らせ、記憶を手繰りよせた……。