自分の身に降りかかった数えきれない凌辱、男達の猛りきったペニスと脈動、そして白濁液。忌まわしい思い出が、走馬灯のように駆け巡る。悪い夢なら、醒めてほしい。だが今自分が置かれている窮地は、まぎれもない現実なのだ。
スタイリングチェアに深く腰かけた時彦の髪を櫛で溶き、ハサミを入れる。時彦の手は、我が物顔で弥穂のスカートの中に潜りこんでは、下着を奪われた剥き出しの赤貝を弄んでいる。時折肩を震わせ、短く、押し殺すような悲鳴を口の端から零す弥穂を、傍らに立った時彦の友人がスマホで撮影している。待合スペースでは、須藤と三島、そして既にカットを終えているはずの鴻上までが、弥穂の姿を眺めながら猥談に興じている。
自分を犯した男達を、夫のいるこの店で客として迎えている。だが絶望している暇すらない。男達は、卑猥な悪戯を躊躇なく仕掛けてくる。夫に気づかれないように、この場を乗り切らなくては、店も、夫婦生活も終わってしまう。もっとも男達のほうでは、弥穂の結婚生活が破綻してしまうことなど、気にも留めていないのだが。
***
『サロン・ド・レイ』の再オープンは、まずまずの滑り出しだった。当初予約こそ低調だったが、開放的なガラス張りの店舗に行きかう人々が関心を寄せ、ふらりと立ち寄る客も増えていった。非常事態宣言の解除と共に、デートをしたり、友人と集まったり、社交の場が復活したことで、美容業界全体が盛り上がっているとも言えた。
今後も筑摩家の性奴隷として仕えることを誓わされたが、店が軌道に乗るまでは、鴻上達への売春を一時活動停止させてもらっていた。もっとも、それがいつまで許されるのか、明確な期限は示されていなかったのだが。
夫との性生活は、相変わらず許可されなかったが、それでも店が順調に軌道に乗ることで、夫婦の間にも次第に笑顔が戻りつつあった。零士の不在中に起こったことは全て忘れ去って、新しい生活をスタートさせる。そんな都合のいい錯覚に耽溺していた。
だが、この日サロンの予約サイトに、鴻上の名前を見出した瞬間、弥穂は再び淫獄に引き戻されるような恐怖に陥ったのだった……。
***
「ありがとうございました。またお越しください」
零士が深々と頭をさげて女性客を見送る。すると間もなく、店の前に麗奈夫人が、現れた。サングラスをかけた若い女性を連れている。
「オープンおめでとう。連れてきたわよ。予約してないけど、大丈夫よね?」
「零士さん、会いたかったわ。零士さんにカットしてもらえるなんて、夢みたいだわ」
サングラスをとった女は、潤んだ瞳でうっとりと零士を見つめている。女は、入院時代に零士を担当していた、本山美咲だった。弥穂は、ハサミを持つ手を止めて、ガラス越しにその様子を食い入るように凝視している。妙な胸騒ぎで、息苦しさを覚える。(あの、看護師さん、奥様とどういう……)
本山と麗奈を結び付けるものといえば、零士の存在だけだ。それが何を意味しているのか、はっきりとは理解できないが、何か自分にとって不吉な予感だけが、胸の中を充満している。
麗奈は、零士の腕を掴んで引っ張り、奥のシャンプースペースへと急かす。ハッとするほど短いミニスカートを履いた本山がその後を小走りで追う。やがて三人は、弥穂の視界から消えてしまう。(二人で奥にいって、一体何を……)イヤな想像を必死で搔き消そうとする努力をあざ笑うように、時彦が告げる。
「ふふ、ママもあの若い女の人も、弥穂さんの旦那さんに夢中みたいだね」
「ば、バカなことを言わないで!」
「多分しばらく出てこないから、僕たちは僕たちで楽しんじゃおうよ」
時彦は、弥穂のタイトスカートを無理やりたくし上げてしまった。
「ほら、アソコで咥えなよ。急がないと、ママとご主人が戻ってきても、知らないからね」
「できないわ、そんなこと、無茶を言わないで……」
尻肉が、ピシャリと叩かれ、乾いた音が店内に響き渡る。
ふと気づくと、鴻上ら買春客三人組もスタイリングチェアの周りに集まっている。早くしろとばかり、寄ってたかって、弥穂の尻を打擲する。一週間の間、鞭もスパンキングも味わっていなかったことで、雪肌はすっかり白磁の艶めきを取り戻していたのだったが、弥穂の尻や腿は、みるみるうちに赤く腫れあがってしまった。
観念したように天を仰いだ弥穂は、やがて時彦の上に尻を下ろしていく。
ミシミシ、ミシミシと巨木が割れ目を割く。亀頭を半分くらい呑み込んだところで、弥穂は躊躇してしまう。時彦の長槍で最奥まで串刺しにされてしまえば、理性を保つことはほとんど不可能に思えた。
「はよせぇや、めんどくさい!」
正面に立った鴻上が、弥穂の肩を思いきり下に押し込んだ。硬直した時彦のペニスが、弥穂の膣道を抉りぬいた。
「はぁぁぁぁん!」という叫びそうになるところを、すんでのところで時彦の手が口元を覆った。
「危ない、危ない。弥穂さん、気を付けないと。僕が押さえてなかったら離婚確定だったよ、今のは」
「時彦坊ちゃんのマラはお父さんに似て逞しいからなぁ。もう奥さん、旦那のことなんてどうなっても構わない、って顔してるなぁ」
意地の悪い三島に揶揄われても、弥穂はもう否定も出来ない。甘い吐息が漏れ出てしまいそうになるので、弥穂は自ら口を押えてそれを防いでいる。
全身を甘い痺れが覆う。ちょうど一週間前に、時彦の部屋のシャワールームで、狂おしい絶頂の連鎖に陥った記憶が生々しく読みがえってくる。
(だめ、今ここで、あんなことになったら……)
店の奥には夫の零士がいる。脳は必死で官能の噴火を鎮めようと信号を送るが、逆に膣の方からは快感のままに乱れよという電波が発信されている。
やがて、膣の波動が、脳の指令を跳ね返し、全身の支配権を握った。時彦の固く凝り固まった亀頭の雁首で、膣襞を擦り上げられると、思考は遠のき、甘い敗北感が全身を満たす。不意に時彦が腰を突き上げたその瞬間、弥穂は昇天させられた。手のひらで声だけは押さえつけたものの、その分全身の痙攣は一層激しく、執拗なまでに絶頂を表現してしまう。ブル、ブルブルと身を震わせる。
(あなた、助けて……)
心の中で叫ぶ。どうしてこんな目に合わされないといけないのか。だが、鏡に映った自分の姿が目に入ると、自己憐憫は吐き気を催すような自己嫌悪に変わってしまう。そこに映っているのは、快感を貪り食うマゾ女以外の何者でもなかったのだ。
何度アクメに導かれたことだろう。一見の客がふらっと足を踏み入れないよう、鴻上らによって店のブラインドは閉じられ、closedの看板が掛けられていた。混濁する意識の中、弥穂は、ふと店内の時計に目をやる。既に三十分近くも時彦に跨っている計算になる。
そうすると、夫の零士は奥のシャワースペースで、三十分もの間、何をしているのか?
弥穂の胸の中を黒い虫が這いまわるような不快感が込み上げてくる。見透かしたように、時彦が囁く。
「旦那さん、ママたちと何してるんだろうね、気にならない?」
「えっ……」
「ちょっと見に行こうか」
時彦は結合部はそのままに、唐突に立ちあがった。反動で、切っ先がこれでもかというほどポルチオ器官に食い込む。咄嗟の一撃に、「あうぅぅ!」と悲鳴を上げてしまう。(ああ、そんな、聞かれてしまう……)
弥穂の両腕は時彦に羽交い絞めにされており、自分の手も、時彦の手も口元を覆ってはくれない。時彦が無理やり歩みを進めるごとに、秘奥はめった刺しにされる。抑えきれない悲鳴が吹きこぼれ、店内に響き渡る。
「お願い、やめて、バレちゃう……」
「ふふ、大丈夫だよ。旦那さん、それどころじゃないはずだから」
「えっ、どういうこと……」
時彦の不吉な言動に、弥穂の胸の中の疑惑は急激に高まった。
(まさか、零士さん、あの二人と……)
時彦の巨根で追い立てられるうちに、弥穂はついにシャンプースペースの前まで来てしまった。そこで目にした光景に、弥穂は背面立位の姿勢で犯されている最中であることも忘れ、狂ったように叫んだ。
「零士さん、あなたたち、零士さんに何を!やめて、やめなさい!」
シャンプーチェアには、全裸の零士が仰向けに横たえられていた。チェアの背中側に回した両手首を手錠で拘束されている。蒸しタオルが目の上に置かれ、その視界は奪われている。
「み、弥穂、そこにいるのか……ああ、見ないでくれ、頼む、お願いだ……」
零士の痩せた身体に、本山美咲が全身リップを施している。見れば、もう足の先から頬に至るまで、生々しいキスマークが全身を隈なく覆っているではないか。
「も、本山さん、あなたって人は……許さない、絶対に許さないから」
「何よ。あなただって、零士さんがいない間に散々気持ちいい思いした癖に。ねぇ、零士さん、これがあなたの奥さんの正体よ。若い大学生のおチンチンに狂って零士さんのことなんてすっかり忘れてしまってるんだから!よく見て!ほら!」
本山は、零士の顔面を覆う蒸しタオルを引っ張り下ろしてしまった。弥穂は、最悪の形で夫と対面させられた。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
地獄の果てから響くような哀れな泣き声が店内に響き渡る。いや、ひょっとすると店の外にまで聞こえていたかもしれない。ほとんどパニック状態に陥った弥穂とは対照的に、零士は一言も声を上げず、ただ息を荒げて口をパクパクしている。
「あらあら、零士ったら。奥さんが時彦さんとハメハメしてる見てそんなに興奮しちゃったの?おチンチンが一段階ギアアップしたみたいじゃない、ふふふひどい男」
零士は、弥穂が嬲られている間、麗奈と本山によってフェラや手コキを浴びせられていたが、射精の寸前で留め置かれていたのだ。愛する妻が目の前にしてもなお、駆け上がった精液に輸精管のキャパシティーは限界を迎えていた。我慢できなければ、夫婦の仲は、決定的に亀裂が入ってしまうだろう。顔面蒼白になりながら、必死で射精を堪える零士をあざ笑うように、麗奈がラストスパートをかける。
「さて、零士は、レイプされる弥穂をオカズにしてどれくらい濃いのを出すんだろうねぇ。見物だわぁ」
悪意に目を爛々と輝かせ、麗奈は手の動きを加速させる。シコシコ、シコシコと下から上へと揉み上げられ、零士を引き返せない高みにまで追い込んだ。
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁ、弥穂、違うんだ、許してくれ、すまない、すまないっ、ああ、あああああああ!」
ドピュ、ドピュ、ドピュ、ドピュ。勢いよく飛び出した精液は天をつき、やがて零士自身の臍の辺りに落下した。噴火を終え、火口からどろりとしたマグマが垂れる。麗奈が目配せすると、本山が零士のペニスにむしゃぶりついた。
「ああ、もう、やめてくれ、それ以上、しないでくれ、お願いだ!」
「ふふ、ダメよ。せっかく二人で気持ちいいの開発したんだから、奥さんに見せてあげましょうよ」
まだ射精の痙攣すら落ち着いていないうちに、本山が唇をキュウと吸い寄せながら、ペニスの根元を扱きたてている。快感に震えながら許しを請う哀れな姿に、鴻上らが嘲笑を浴びせかける。弥穂は、瞬きすることも忘れ、その姿を呆然と見つめている。
愛する夫は、既に麗奈と本山の毒牙にかかっていた。そして、その口ぶりからして、これは初めてではないのだろう。
「ふふふ、私たち、入院中夜通し零士さんのこと、看病したのよ。おかげでこんなにすっかり元気になっちゃって。弥穂、感謝なさい」
弥穂の脳内で、記憶の糸がつながる。鴻上らに三人がかりで病室で犯された日。前夜に零士は一晩中うなされて眠れなかったと本山が言っていた。今思えば、その夜、麗奈と本山によって夫は嬲りものにされていた、そう考えるのが自然だった。
「ああ、零士さん……どうして……」
本山が射精後のクールダウンも許さず、ハイペースな手淫を続ける。零士は腰をバタつかせるが、麗奈と本山が体重をかけてそれを制する。零士の眉間に、先刻の射精時にも増して深い皺が刻まれる。
「麗奈奥様、私分かるの。もうすぐ来るわ。おチンチンがドクドク言ってるんだもの」
「そう?零士、見せてやりなさいよ。あなたの潮吹き。ふふ、ここから弥穂のお顔くらいまで届くんじゃないかしら」
「零士さんに何をするの!もう、やめて!零士さんを放して!」
「ふふ、零士さん、気持ちよすぎると、クジラになっちゃうのよ。あなた知らないでしょ。私が毎晩可愛がってあげたから、こんな芸もできるようになったの」
零士は、眉間に深い皺を作って、手コキの刺激に抗っている。
「零士さん、いつもみたいに、リラックスさせてあげよっか。ほら、いいわよ。吸って赤ちゃんみたいに」
本山は、ブラカップ付きのキャミソールを勢いよく脱ぎ捨て、弥穂にも負けないほどの大ぶりの乳房の尖端を零士の口に押し付ける。右手で零士の頭を抱きかかえては乳首を口の中に押し当て、左手は休みなくペニスを扱きたてている。柔らかな乳の感触に、抵抗力を削がれたのか、零士の眼にはもう力が宿っていない。
(ああ、零士さん、どうなってしまうの……)
ふいに、零士の腰がビクン!と跳ねた。次の瞬間、鈴口から水柱があがった。ブシャーという音が聞こえてきそうなほどの量の液体が、放物線を描くように宙を舞う。その先端が、弥穂の髪に降り注ぐ。放水は、一度ならず、二度、三度と変わらぬ強度で放たれた。ビシャ、ビシャと弥穂の髪や頬、鼻先を零士の放った『男潮』が叩きつけた。
「ははは、零士、なんてざまだよ。入院中にこんなかくし芸を覚えていたなんてなぁ」
ふと後方を見遣ると、いつの間にかやってきた下村が、零士の痴態を指さし、腹を抱えて笑っている。
「弥穂、こんな奴を結婚相手に選んだのが運のつきだったよな」
夫婦の中を引き裂こうという邪悪な魂胆から投げつけられた言葉に、弥穂は強烈な怒りを覚えて睨み返した。
再び夫の方に目を向ける。圧倒的な快楽拷問の前に屈服し、怯えるように身体を震わせる夫の姿が、大粒の涙で霞む。夫も、自分と同じなのだ。肉の悦びで支配され、堕落させられ生き恥を晒すことを強制される。その辛さや惨めさが、弥穂には痛いほど分かる。
自分でも意外だったが、胸の中から込み上げてくるのは、失望でも軽蔑でもなく、夫への愛情だった。膣には時彦の剛直が突きささったままだが、まるで目の前の夫のペニスを優しくなであげているような錯覚すら覚えていた。膣の襞が情熱に満ちた収縮を繰り返す。
「へへ、弥穂さん、そんなに締め付けるなって。奥さんも、旦那さんのこういうところ見て興奮しちゃったのかな。変態夫婦じゃん、まったく」
「ははは、弥穂そうなのか?俺たちにハメられまくってとうとう頭がおかしくなっちまったのかよ」
「てめぇ、真仁、お前、妻を、弥穂を……ぜ、絶対に許さないぞ、殺してやるからな!」
「大勢の前で潮吹いた分際で笑わせんな。今のシーンはしっかりビデオに納めさせてもらったからな。弥穂がここら辺のオヤジ連中に抱かれてヨガリ狂ってる動画とセットにして、高校の同窓会で流してやろうか?はははは!」
零士は、憤怒の涙と鼻水で顔をドロドロにして泣きわめいている。
「情けねぇ面だなぁ。弥穂ももうこんな男にはうんざりだ、そうだろ弥穂?まだこの時間なら役所も空いてる、このまま離婚届出しに行こうぜほら、ここに用意してやったから」
下村の手には、離婚届の様式と、弥穂の自宅から盗み出した実印があった。それを無理やりに弥穂の握らせようとするが弥穂はそれを力の限り振り払い、投げ捨てた。
「零士さん、私、どんなにひどい目にあっても、どんなに恥ずかしい目にあっても、あなたのこと放さないわ。私、こんな人たちに、絶対に負けない。だから零士さんも、負けないで!」
被虐の泥沼に墜ちた人妻が、再び自我と夫への愛を取り戻した瞬間だった。
だが、まわりを取り巻く淫鬼たちは、反旗を翻した弥穂を再び色地獄に突き落とし、零士との仲を引き裂くための奸計を練る楽しみが増えたとばかり、揃いも揃って目に淫らな嗜虐の炎を燃え上がらせるのだった。
完