弥穂が金銭的な援助と、夫の医療の確保の代償にその身を筑摩夫妻に捧げることを誓った三日後には、零士はY市内の中規模クリニックへの転院していた。省三の知人が経営しているというそのクリニックは、富裕層に特化したハイクラスの入院設備を有していて、個室の病室はさながらホテルのような優雅さを備えていた。省三のコネクションと財力に、弥穂は脱帽した。おぞましい凌辱をこの身に刻むことになろうとも、夫の健康を守ることが出来た、自分の選択は間違いではなかった、そんな風に念じるような気持で、弥穂は零士の病室のドアをくぐった。
「ああ、あなた、無事で、ここまで帰ってきてくれて、本当によかった……」
零士の手を握りしめながら、弥穂はもう感極まって涙を流している。先日栃木県内の病院に零士の元を訪ねた時とは違い、今はまともな衣服をまとっている。交際時代に零士がプレゼントしてくれた、白いノースリーブのワンピース姿の弥穂は、こらえきれずに零士をそっと抱擁した。その傍らには、筑摩麗奈が立っていたのだったが……。
「あなたが零士さんですね。この度は、本当に苦労をされたようで、弥穂奥様から事情は伺いました。もう心配なさらなくって大丈夫ですわ。夫の筑摩は、全面的にお二人をサポートしていきます。このような国難の最中ですもの、助け合わなくてはなりません。未来あるお二人をこんなつまらない流行病なんかに潰させてたまるもんですか」
麗奈夫人は、まるで人が変わったような善人を何の臆面もなく演じきっている。零士は、完全に麗奈夫人を信じ切っているようで、もう目を赤くしてさえいる。
(ああ、なんという恐ろしい人でしょう。よくもこんな白々しいウソを……)
だが、未だ衰弱状態にある夫に、真実を告げるわけにはいかない。なんとか調子を合わせて、その場を繕う。
「色々大変だったけど、筑摩さんご夫妻に、援助してもらって、なんとかやっていけそうよ。お店は、私ひとりじゃあ開けられないから、零士さんが退院するまでの間、筑摩さんのお家で、少し家事を手伝わせていただくことになったの。ほら、麗奈奥様も、色々と事業をされているから、お仕事がお忙しいみたいなの。少しでも恩返しがしたくて。だから、面会には、毎日来るつもりだけど、あまり長くはいられないかもしれないわ……」
「ごめんなさいね、ご主人。悪く思わないでちょうだいね。このご時世で、何かと人手が足りないもので、つい弥穂奥様のご厚意に甘えてしまって。もちろん、ご主人が退院した後は、サロンのお仕事に百パーセント専念してもらうつもりですから、安心してくださいね」
「とんでもないです。こんなによくしていただいて、こちらこそ恐縮です……ほんとにもう、なんとお礼を言っていいか、俺、う、ぅぅぅ」
途中で声を詰まらせ、泣き出す夫を見て、弥穂の気持ちは複雑だった。
(違うの、零士さん。この人たちは、見返りに、私を、私の身体を食い物にするつもりなの……それでも、それでも私、零士さんに無事でいて欲しくて。私、汚されてしまったけど、そんな私でも、まだ愛してくれる?)
***
弥穂は、筑摩家で家政婦兼性奴隷として虐げられていた。筑摩家の敷地の中では、弥穂は原則として一切の着衣を禁じられた。玄関前のドアホンに設けられたカメラの前で、衣服を全て脱ぎ去り、裸身を隈なく映さない限り、入室すら許されない。
玄関前でのストリップは、日々過酷さを増した。麗奈はドアホン越しに、弥穂に命じて卑猥なポージングやダンスを命じ、弥穂が応じるまで決して解錠しない。
最上階を訪れる者は稀ではあったが、それでもエレベーターが上昇してくる気配を感じると恐慌状態に陥ってしまう。ある日など、弥穂は麗奈にドア越しにオナニーを命じられた。さすがに抗議する弥穂だったが、
「いいのよ。その恰好で廊下に立ってなさいよ。あ、そろそろ通販で買ったものが宅配で届く頃だわ。丁度いい。販売員の男の子、とっても可愛いのよ。いつもお世話になってるから、あなたのサービスショットで労ってあげることにしましょう」
「ああ、そんな!イヤです!します、しますから、このとおりです……うぅぅ」
弥穂は、廊下に尻を突き、足をM字型に開いて、本意気のオナニーを始めないわけにいかなかった。狼狽しきった様子の弥穂にようやく満足したのか、玄関の自動錠がガチャリと解放される音が聞こえた。中では更なる過酷な試練が待っているというのに、深い安堵のため息をついてしまう自分が、たまらなく惨めだ。
「ああ、麗奈奥様、こ、この方たちは……」
その日、弥穂が出勤したのは昼過ぎ頃だったが、筑摩邸のダイニングテーブルには先客がいた。省三は仕事で外出しているようで、麗奈夫人が二名の友人を招き入れていたのだ。
「ああ、この人たちは私の高校時代からの友達で、理沙と恭子。失礼のない様になさいよ。あなたたちにも改めて紹介するわ。うちの家政婦の園川弥穂。家政婦といっても、どちらかというとペットに近いけどね。一応、人妻よ」
「ふふ、さっきはすごいパフォーマンス見せてもらったわ。よろしくね、弥穂ちゃん」
「ねぇねぇ、続き、してよぉ。間近でみたいわぁ、人妻の恥知らずなひとりエッチ」
「いっ、イヤ、そんな、麗奈奥様、これは、あんまりです……」
「ん?なに?やっぱり外の廊下でしないと興奮しないのかしら。いいわ、来なさいよ」
麗奈が乱暴に弥穂の手首を掴んで玄関スペースへと引きずる。手足をバタバタさせながら何とか踏みとどまろうとするが、理沙と恭子までが麗奈夫人に加勢するので、弥穂は一気に玄関ドアの前まで曳きたてられた。
「ごめんなさい!反抗して、本当に申し訳、ありませんでした!ですから、外に出すのは、どうか許してください。します!ここで、続きをさせていただきますから!」
結局、弥穂は上がり框のあたりで、手淫に興じる羽目になった。
三名の同性に見下ろされながらのオナニーは、羞恥が先行してどうも気分が乗らない。イマイチ盛り上がらない弥穂の姿にイラついた様子で、三人の鬼女達から罵詈雑言が投げつけられる。心無い言葉に心が抉られるのを耐えながら時間が過ぎていく。そのうちに、ドアホンが鳴った。
「あ、やっと来たわ。宅配よ」
弥穂は、思わず部屋の奥へと後ずさりするが、理沙と恭子に遮られる。
「あれぇ、荷物の受け取りなんて、家政婦さんのお仕事じゃあないのかしら?」
「なにか、なにか着るものを……」
逡巡している間に、二回目、三回目のチャイムがなる。
「ねぇ、不在扱いになったら面倒なんだけど?帰っちゃったら、その恰好で下まで走って追いかけてもらうわよ、いいの?」
「そんな、無茶です……」
「仕方ない、これだけあげるから早く出なさいよ」
麗奈夫人が弥穂に手渡したのは、大きな婦人用のハンカチーフだった。これで、身体を覆えということか。だが大きいとはいえ、所詮ハンカチーフだ。身体に巻き付けられるほどの面積はない。手で押さえる他ない。布地は広げると極めて軽やかで、薄い。乳首も、下腹部の茂みもうっすらとその陰影を浮かべている。
鬼女三人は、ニヤニヤしながら、手前の部屋に隠れた。ドアの陰から、玄関の様子を覗き見るつもりらしい。弥穂は、ようやく決心して玄関のドアを開けた。
「こんにちわー、ヤマダ運輸で、っ……す。え、え?」
ドアの先には、長身でハンサムな青年配達員が小包を片手に立っていた。突如現れた半裸の美女を前に、言葉を失って立ち尽くしている。
「す、すみません、こんな格好で……あの、えっと、お、お風呂に、入っていたもので」
「あ、ああ、そ、そうでしたか、こちらこそ、すみません。あのお荷物を……」
青年は、申し訳なさそうにしながらも、視線は弥穂の恵体に釘付けになって瞬きもしない。
「あの、サイン、ですよね」
「あ!そうですね、ここに、お願いします」
青年はハンカチーフ越しの女体のシルエットに見とれ、すっかり業務を忘れている。ハンカチーフを持つ手が、両手から片手になる。玄関ドアから吹き込む風に、生地がそよぐ。危うく腰元が露わになりそうになり、ボールペンで書く字が震える。
青年は、もはや熱っぽい視線を隠そうともしない。だが、はっと何かを思いだしたように言う。
「あの、失礼ですが、筑摩麗奈様ご本人では、……ありませんよね?こちら、高額の商品になりまして、その、ご本人確認が少々厳密に必要になってございます。奥様は、ご在宅ではないでしょうか?」
弥穂は、当惑を極めた表情で、麗奈夫人たちが隠れているドアの方をふと見遣る。ここで夫人に助けを求めたら、どうなるだろうか?お前のせいで私まで恥をかかされたなどと言って、更なる仕置きに繋がるだろうことが、容易に想像される。弥穂は観念して青年の方へ向き直り、伏し目がちに言う。
「奥様は、生憎外出中でございまして……あの、どうしたら」
「それでは、印鑑かなにか、ございますか?認印でかまいませんので」
「ございます……」
「では、お願いできますか?」
「あ、あの、少しあちらを、向いておいていただけないでしょうか?」
「えぇ、私、ドアの方向いてますから、遠慮なく」
青年は、いつのまにか当初の戸惑いからすっかり脱して余裕の面持ちで、ニヤニヤしながら言う。心なしか態度も横柄になりつつある。弥穂は、悔しさと恥ずかしさに、下唇を固く噛みしめながら、部屋の奥へと、ゴム印を取りに戻った。後姿、とりわけその豊かな尻を、青年に晒したくなくて懇願した。だが、本当にこの配達員が言葉通りドアの方を向いていてくれているか、確認することもおぞましかった。(当然のように、青年は真正面から弥穂の臀丘を凝視していたのだが)
ことほどさように、抵抗しても、更なる脅しや暴力で結局従わざるをえない。反抗は懲罰の口実を与えることになり、より一層惨めな目に合わされる。弥穂は、自分の置かれた立場を、奴隷家政婦としての最初の二日間で嫌と言うほど思い知らされた。
***
ゆったりとした病室に夫の零士の姿を認め、その顔色が栃木の病院に入院している頃よりも幾分か良くなっていることに気づくと、これでよかったのだ、と自分に言い聞かせた。(どんなに苦しくても、私には零士さんがいる。零士さんがすっかりよくなって、家に戻ってくるまでの辛抱よ。負けちゃ、ダメ)
午前中に病室に零士を訪ねたその日、弥穂は午後から筑摩邸へ呼び出されていた。夫の回復までは身を石にしてどんな責苦にも耐え抜く。そうした覚悟も、早速揺らいでしまうほどの仕打ちが待ち構えているとは知らず、弥穂は再び淫鬼の巣窟を訪ねた。