「ほら、俺の腕、組めよ」
階下へ向かうエレベーターを待つ間、下村は横柄な態度で弥穂に命じた。恥ずかしい恰好をさせられている心細さ、少しでも他人の視線から肌を隠したいという気持ちから、要求に応じてしまう。だが、すぐに後悔の念が込み上げてくる(ああ、こんな姿、近所の人に見つかったら……)
政府からの外出自粛要請は続いている。そのせいか、部屋を出てから、近所のコインパーキングに駐車している下村のステーションワゴンにたどりつくまでの間、幸いにも誰ともすれ違うことはなかった。逃げるように助手席に雪崩れ込み、安堵のため息を漏らした。何しろ、ノーブラの乳房は大きく弾み、またピッチリと尻に張り付いたマイクロミニは一歩ごとにじりじりと競りあがってしまうのに、左腕は下村の右腕と組んでおり、身動きが取れなかった。スカートの裾を抑え、臀丘が飛び出るのを冷や汗を流しながら防いでいたのだ。
ほっとしたのも束の間、弥穂は運転席の下村から卑猥な視線と愛撫に晒されることになった。下村は、ハンドルを握りながらも、助手席の弥穂をチラチラと覗きみている。ただでさえ大きく開いた胸元が強烈な刺激を放っているうえ、斜めに双乳を分かつシートベルトが、その淫猥さを倍加させている。
「おっぱいスラッシュってやつだな。たまんねぇ」
下村は鼻の下を伸ばしながら、上乳をツンツンとついては弥穂を困らせる。乳房の感触に気を取られて、ついハンドルさばきが雑になり、車体がふらつく。
「ああ、危ない!ま、前を向いてください、お願いですから!」
下村は、脇見運転を注意された腹立ちまぎれに、陰険な表情を浮かべながら言う。
「ちっ、お前が寂しい思いをしないようにと思ってやってあげてるのによぉ。もういいよ。なぁ、弥穂、オナニーしろよ」
「な、何を、言ってるんですか、そんなこと、しません……」
急ブレーキが踏まれ、ステーションワゴンは路肩に停車した。
「お前、分かってないな。イヤならこのまま車を降りてもらっても構わないぜ」
ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる下村の表情から、弥穂は絶望的な事実に気づかされた。今現在、財布も、スマホも、自宅の鍵すらも持っていないのだ。部屋を出る際に下村が施錠していたのを、うっすらと記憶している。その後、カギは下村の胸ポケットに収められていた。この男の機嫌を損ね、見知らぬ街で、こんな破廉恥な恰好で車から放り出されたらどうやって帰ればいいのかも分からないし、帰り着いたとしても部屋に入れない……弥穂は心拍数が急激に高まるのを感じた。不安に色を失う弥穂に、下村が追い打ちをかける。
「俺が代わりに見舞いに行ってやるから心配すんな。だが、その時は、弥穂が羽目を外して遊んでること、親友として黙っているわけにはいかないだろうな」
「あ、遊んでるなんて……言いがかりはやめてください!」
「そうかい?だが、零士はどう思うかな?こんな柄の悪い男を店に連れ込んで、ラブラブしてるのを見たら」
下村が、ダッシュボードのホルダーに固定されたスマホを操作すると、動画が立ちあがった。若い女が、オールバックのヤクザ風の男に、ディープキスを仕掛けているシーンが再生された。唾液の弾ける生々しい音が車内に響く。まぎれもなく、女は弥穂で、男は鷹藤だった。鷹藤の口から、何とかして避妊薬を取り戻そうと必死の様子を捉えたものだったが、傍目には情熱的なキスを仕掛けているようにしか見えない。
「ど、どうしてこれを……」
「ん?おれはお前の借金を百万円も肩代わりしたんだぞ。これくらいの特典はあって当然だろ?」
「下村さん、あなた、本当は初めからあの男達と……」
「そんなわけないだろう。俺はバンカーだぞ。あんなヤクザ同然の奴らと関わるわけがない。お前と一緒にしないでくれよ」
「くっ……、ひどいわ。バカにしないで……」
悔しさに、弥穂は涙ぐんだ。昨夜、下村が初めに見せていた誠意も優しさもすべてが偽りであることは、いまや明らかだ。いや、本当はもっと早くから薄々気づいてはいた。だが、鷹藤らに嬲られて心底弱りきっていた弥穂は、救いの手を差し伸べてくれた下村の善意にすがるあまり、現実が見えなくなってしまっていたのだ。(私、なんて愚かなの……)
「で、どうするんだ?降りるか?それともオナるか?どっちかにしろよ」
「……し、しますから。すればいいんでしょう?早く車を出してください」
止まっている車で自慰行為に及ぶのは、躊躇われた。歩行者に覗き込まれるのが怖かったのだ。
「なんだよ、その態度は、ムカついてきたぜ。まずは一回詫び入れてもらわないと気がすまないな」
圧倒的に優位な立場に立つと、下村は弥穂を屈服させたい衝動に駆られた。
「どうして、私が謝らないといけないんですか……」
「俺の好意に背いて生意気な態度取るからだよ。ほら、こう言ってみろ」
下村が、弥穂の耳元に台詞を吹きこむ。弥穂は眉根を八の字に歪める。
「ほら、どうなんだ?ここでバイバイするか?」
「……」
「い、言いますから……よ、欲求不満の、変態の分際で、し、下村さんの愛に背き、失礼な態度をとってしまい、本当に申し訳、ありませんでした。仰せの通り、お、オナニーをして、お詫びにかえさせていただきます。う、うぅぅぅ……」
ステーションワゴンが、再び発進した。弥穂は、両足を座席の上に乗せ、M字型に開くことを強制された。おずおずと指を肉の芽に添え、スルスルと撫でる。
「これ見ながらしたら、捗るんじゃないか?」
下村がスマホの動画を再生した。場面は、弥穂が鷹藤の上に跨って腰を振り立てるシーンに転じていた。音量も最大まで引き上げられたので、弥穂の嬌声が割れるようなボリュームで流れている。困惑しながら、クレバスに指を這わせると、そこはもう自分でも驚くほどの潤いを湛えていた。
「くく、車内にエロい匂いが染みついちまうじゃないか」
下村がパワーウィンドウに手をかけた。窓ガラスが開け放たれる。動画の嬌声が車の外にもれ聞こえるのではないかと、弥穂は気が気でなかった。恨みっぽい視線を下村に投げかけても、一向に閉めてくれる気配はない。
「イクまで終わらないからな。しっかり気分だして、派手に気をやるんだ。なに、下半身までは見えはしないさ。真剣にやらないなら、外でやらせるぞ、いいな」
(うぅっ、そんな、とても無理よ……)
歩道の歩行者や自転車とすれ違う度、弥穂は心臓が止まりそうなほどの不安に胸が締め付けられる。指の動きはどうしても中断しがちだ。信号で停車中、下村はいら立った様子で舌打ちすると、いきなり大きなクラクションを鳴らした。ビッビーという大きな音が周囲に響きわたる。遠目に見える人影が、なにごとかと周囲を見回し、やがて音の出どころであるこちら側をいぶかし気に見つめているのが目に入った。
「や、やめて、言うとおりにしますから、お願いします!」
弥穂は、観念したように目を閉じ、大慌てで肉芽への摩擦を再開した。
ようやくクラクションが鳴りやみ、発進した。程なくして高速道路に入った。対向車や、歩行者を気にしなくてよくなると、弥穂は少しずつ自慰行為に耽溺し始めた。
(私、なんてことをしているの……)
弥穂が初めて自慰行為に手を染めたのは、確か中学生の頃だった。男子生徒のとの交際こそあったものの、引っ込み思案な性格の弥穂は、零士に出会うまでは処女を喪失するには至らなかった。だが、弥穂に性的な好奇心がなかった、というわけではない。女友達にも決して打ち明けることはなかったが、女性誌の特集等でオナニーのコツなどを見るにつけ、幼き少女は秘密裏に自らの性をひっそりと開花させていった。絶頂に達するには至らなかったが、それでも少女の性感は育まれていった。
もっとも、零士と結ばれてからは、もう手淫に興じることはなくなっていた。久しぶりに自分で慰める雌しべが、昔より一回り以上大きく発達していることに気づき、弥穂はたまらなく恥ずかしい気持ちにさせられる。瞼は閉じているので、目の前のスマホが映し出す自らの痴態は、遮断している。だが、生々しい喘ぎ声が鼓膜を揺さぶるのは防ぎようがない。瞼の裏に、鷹藤の長大な男性器が浮かびあがってくる。物のように乱暴に扱われ、蹂躙されたあの夜の記憶が鮮明に思い出され、秘奥からしっとりと密が沁みだしてくる。
「いい表情になってきたな。自分ばかりよくなってないで俺のも少し相手してくれよ」
ふと視線を運転席の下村の方へやると、いつの間にかスラックスのファスナーが下ろされ、赤黒く屹立したペニスが露わになっている。
下村の左手が弥穂の後頭部を乱暴に掴むと、無理やり自分の股間の方へと引き寄せた。弥穂は、苦悶の表情を浮かべながらも、下村を口で咥えこんだ。
「口だけでやれ。手はマンズリで忙しいだろうからな」
弥穂は、手淫を継続しながら、首を振り立てた。尻を窓ガラスに向けて大きく突き上げる形になった。身体の前側から右手を股間に回し、肉芽を擦ると、痺れるような電流が背筋を流れた。この異常なシチュエーションが、弥穂に深甚な興奮をもたらした。
「クリだけじゃなくて、中も掻きまわせよ。俺に聞こえるようにな」
言われるがまま、中指をクレバスに埋めていく。クチュ、クチュという水音が響き、下村をにんまりとさせる。
「続けろ。そのまま天国までいっちまえ」
顔を下村のペニスに埋めていると、自然と車の外のことが気にならなくなってくる。口腔内を満たす逞しい男性器と、スマホから流れてくる自らの嬌声、そして今まさにヒクついて指を食いしめるように律動するヴァギナに意識が集中する。左手が乳首を、右手の親指が肉芽を、そして中指がGスポットを擦りあげると、弥穂は意識が遠のいてくる。(ああ、私、自分でも……)
一瞬、頭の中が真っ白になり、瞼の裏で無数の星が弾けるような感覚と飛翔感を味わう。総身を震わせる弥穂を見下ろすようにしながら、下村が嬉しそうに言う。
「おぉ、ずいぶん派手に気を遣りやがったな。後ろを見てみろ、トラックの運ちゃんも呆れ顔だぜ」
ペニスを吐き出すことは許されなかったので、窮屈に首を少し捻ねると、引っ越し業者のトラックが、あわや接触せんかというほどの距離を隣の車線を走っている。いつの間にかステーションワゴンが追い越し車線からトラックに接近していたのだ。無論、弥穂の痴態を見せつける意図で、だ。
運転席の高い位置から、こちらを覗き込んできているドライバーの中年男性の姿が、視界の端に映りこむと、弥穂は半狂乱で首を振り立てた。下村の左手が弥穂の頭を上から押さえつける。
「はははは、頭隠して尻隠さずってのはこのことだな。まぁ、落ち着けって、このままジッとしてたら顔が割れることはないさ」
早くトラックと距離を取ってくれ、と必死の視線で訴える弥穂を無視して、ステーションワゴンはトラックと並走を続ける。
「おお、この運ちゃん、お前に未練タラタラだな、中々追い越しができないぜ。なぁ、もうちょっとサービスしてやれよ。そうだな、尻をガバっと左右に開いてやれ。ケツの穴を見せてやれば満足するだろう」
「うぐっ、むぅぅ、むぅぅぅぅぅん、むぃえふ、むぃやぁ……」
男根で口と言葉を封じられている弥穂だったが、見ず知らずの男に排泄器官を広げて見せるなど、出来るはずがない。必死の抗議をつづける弥穂に、下村が追い打ちをかける。
「グズグズしてると、捩じり棒を突っ込むぞ、いいのか?昨日のやつより一つ大きいやつがここにあるんだが?」
下村が、胸ポケットから捩じり棒を取り出し、弥穂の頬をつつく。
「むぅっ、ひぃぃやぁぁぁ!」
「やーれ、早く。三秒数えるうちにやらないなら、ぶっさすぞ、さん、にぃ……」
肛門を突かれる恐怖に負けて、弥穂は下村の要求に屈した。(ああ、は、恥ずかしい、狂ってしまう……)むんずと掴んだ尻肉を、グイっと開く。高速道路を疾走する車の窓に吹き込む風が、アヌスを乱暴に撫でる。トラックのドライバーがあんぐりと口を開けてこちらを凝視しているのが、気配で感じられる。(見ないで、こんなところを、見ないで……)
極限の羞恥に奥歯がきしむ。ほんの数十秒ほどの間に過ぎなかったが、弥穂にとっては永遠のように感じられる時間だった。気づけば、アクセルを踏み込んだステーションワゴンは、トラックをもう十メートル以上引き離した後だった。