そういうわけで、翌日。私は早速人事部長との面談の場にいた。執行役員も兼ねた部長だったから、役員フロア内の個室で。膝くらいの高さの、応接テーブルを挟んで、ソファに腰掛け、嘘の証言を重ねた。
「笹山課長には……いろいろ、優しくしてもらって、仲良く、していただいていました。それで、仕事の帰りに、お酒を飲みにいったりもするようになって……それで、少し、悪戯というか、悪ふざけ……みたいな感じで、身体を、さ、触ったり、触られたりを、するようになりました……」
言葉が喉から口を経て出ていく度、血の塊みたいな苦味を感じた。
「初めは、居酒屋とか、カラオケとかで……でも課長の方が段々、会社の中でも、私のことを、触るようになってきて、私も、あまり強く断れなくて……」
頭の禿げあがった人事部長さんはあんぐりと口を開けて、私の話を聞いていた。
「き、君、自分の言っていることが、分かっているのかね?」
「は、はい……本当に、ごめんなさい……」
「し、しかし、それなら、どうしてセクハラの告発何てしたのかね?課長も決して褒められたものではないが、それにしても、君がやっているのは、酷い仕打ちじゃないかね?」
「それは……その、そ、添田さんが……」
私は、言い淀んだ。その場に同席していた鈴原主任が口を挟んできた。
「課長、私も昨日、彼女から話を聞いて、びっくりしてしまったんですけどね。どうも、この笠谷さん、同じ部署の添田君と付き合っているらしいんです。そうよね、笠谷さん?」
「……はい。その、笹山課長と、給湯室で、一緒にいるところを、添田さんに見られてしまって……わたし、本当のことを、言い出せなくて。セクハラなんて絶対に許せないから課長のことを告発する、と添田さんが言い出したので、そのまま、ずるずると……ああ、ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
悔しくて、泣いた。号泣した。どうして、私が謝らないといけないんだろう。
人事部長さんは、次第に明らかに不愉快そうな表情に変わっていった。厄介ごとはどうにか自分の周りから振り払いたい、そういう態度を隠そうともしなかった。
「しかし、それにしても、唐突だなぁ。なんで、今、それを白状しようと思ったの?」
「その……添田さんがカザフスタンに、長期出張に出てから、いろいろと、一人であの件に向き合う時間ができたので……」
そう口にしてから、思った。隣の席に添田さんがいても、私は、このウソの証言をしていただろうか?それとも、添田さんに全てを打ち明けてしまっていただろうか?それが、添田さん自身のキャリアに関する致命傷の宣告に等しかったとしても。そしたら添田さんは、なんて言ったのかな。何もかも捨てでも、私を、守ってくれたかな……そこまで愛されているって確信は、悲しいけど、まだ持てなかった。
人事部長さんは、ワザとらしくため息をついた。
「そうかね……でも、どうしようかねぇ。役員会にも、もう報告済の事案だしなぁ……」
「私が社長に内々に報告しておきますから、役員会のことはご心配なく。部長、ほら、この通り、笠谷さんものすごく反省してるようですから、どうか寛大な処置をお願いできませんか?こんなに大泣きしちゃって、可哀そうじゃありませんか」
私の涙が都合よく誤解されるように、鈴原主任が誘導していった。
そうして、横に座った彼女が、トン、トンと膝をぶつけてきた。それが、合図だった。私は、涙を流しながら、閉じ合わせた股を、少しずつ、開いていった……
その日は、本社オフィスのドレスコードを軽く違反する程度の、短めの丈のタイトスカートを履かされていた。
その日の朝。鈴原主任に言いつけられていた。
「極めつけは、泣き落としとお色気作成ね。感極まっている中で、ついお股が緩んで、盛大にパンチラしちゃうっていうのがいいわ。これで、あのむっつりスケベな部長も、イチコロよ。言う通りしなかったら、タダじゃ済まさないからね」
ただひたすら、情けなくて涙が止まらなかった。セクハラ被害をなかったことにするどころか、それを自分が望んでいたことだと言わされ、挙句の果て、慈悲を乞いながら、色仕掛けだなんて……
少しずつ開いた脚の角度が、鈴原主任にはまだ気にいらなかったのだろう。彼女はテーブルの下、パンプスの爪先で私を小突き続けた。
ソファの上で、私はもう絶対に不自然なほどに、開脚していた。内腿の筋肉に妙な緊張を感じるほどに。
流れる涙をハンカチで拭く合間。人事部長さんの粘っこい視線が、チラリ、チラリと私の股の間を盗み見るのが目に入った。嗚咽を嚙みころしながらいった。
「どうか、このことは、添田さんには、添田さんだけには知らせないでください、お願いです。どうか、どうか……」