[あらすじ]
私の名前は、摩耶。総合商社でOLをしている、二十五歳。 悪質なセクハラに悩んでいたけど、勇気を出して告発した。加害者の上司は、すぐに左遷された。それから私は、大好きな先輩社員と交際中。仕事も恋愛も全てが順調だった。
ある日、人事部から「女子社員向けに、セクハラに関する座談会を開くので、出席してほしい。新入社員研修の一環だから」と言われた。 泣き寝入りする女性がいなくなってほしい。そんな純粋な気持ちで、私は首を縦に振った。

…だけどそれは、巧妙に仕組まれた罠だった。 その先に、自分の恋愛観までも破壊してしまう、淫らな運命が待ち受けているなんて……

2026.01.19 永井 亮
女性一人称、ラブストーリー
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地下二階にある多目的トイレの隅っこ。ちょうどあの、悪夢みたいな研修の時と同じように、今、私はカレに立位で貫かれている。あの日と同じように、ゴムもつけていない。
違うことと言えば、私は、もうスーツも下着も、何も身に纏わない全裸であること。それはカレのほうも同じだった。他にもある。この密室ではもう、強制わいせつの被害者を演じる必要がなかった。カレの肩にしがみついたり、指を食い込ませたりして、自分の快感を表現することを許されていた。

カレとのセックスの魔法に翻弄されていたことは、否定できない。
でも。何もかも、どうでもよくなってしまったわけじゃない。今夜帰国する添田さんを迎えにいかないといけないんだ。でも、カレが、西條君がしたい、と言ったら絶対に引き下がらないことも知っている。そして、私がそれに逆らえないことも。
だったら、早くカレを満足させて、この場を終わらせる方がよっぽどいい。そんな風に自分に言い訳しながら、この多目的トイレに入った。
私との初めての日の思い出の体位だからといって、カレはこうして部屋の隅で、立位のセックスをすることに拘った。カレが少しでも早く満足して、私を解放してくれるのなら、なんでもいいじゃないか、と。私は身をゆだねる。
でも、いつもきまって、そうはならなかった。カレを一度射精に導く前に、私は数えきれないほど登りつめた。
好きにすればいいじゃない。そう言って投げやりな態度を取る私が、最後には息を荒げて、何度もカレの身体にしがみつきながら痙攣を繰り返す。それを見て、カレはいつも得意気だった。返り討ちにしちゃってごめんね、って悪戯っぽくいうかのように。
「はぁ、はぁ、はぁ……そろそろ……、ねぇ、もうそろそろ、いいでしょ?いい加減、もう出してよ……」
「いいけど、中でだよ?」
「だ、だから!中はダメだって、なんどいったら、あ、ああああっ」
「ふふ、摩耶さんこそ、なんど『イッたら』気が済むのかなぁ?」
 意地の悪い冗談にも、反論できないまま、また意識がふっと遠くなる。
 
射精しない、と心に決めたら、絶対に射精しない男。それが西條君だった。その体質を利用して、私を根負けさせた。何度も。
「ねぇ、俺、摩耶さんから『中で出していいよ』ってその一言だけ聞けたら、魔法みたいにスーッと出ちゃうんだ。逆に、その一言を聞くまでは、どれだけ振り絞ろうとしても、出ない。ほんとに不思議だよ」
「う、嘘ばっかり……最低」
「ふふ、もっとずっと続けたい?俺はいいよ。朝までだって、突いてあげる」
 
 *****
その言葉は、誇張でもなんでもなかった。私にはそれが身に染みて分かっていた。
先週、私はカレの自室に連れ込まれた。自室、といってもマンションなんかじゃなくて、カレは会社の、若手社員向け単身者寮で暮らしていた。
入居者は男性社員のみ。だから誰かに見つかったら、即スキャンダルになる。午前零時前後の闇の中、非常階段を足音忍ばせ、カレの住む七階まで。私たちは身を隠しながら、息を切らせて駆け上がった。
 非常階段を上りきって、長い廊下をダッシュした後。部屋の中に忍び込んですぐ、カレは私をベッドに押し倒した。もう五月も終わるころで、蒸し暑さが立ち込めていたうえに、走った後だったから、私はかなり汗ばんでいたのに、シャワーも浴びさせてもらえなかった。
 部屋の中も、私にとって安心できる場所じゃなかった。古い建物で、防音も何もあったものじゃなかった。隣の部屋のテレビからは、深夜帯のお笑い番組が流れているのが聞こえた。
 硬くなったそれを、憎らしいほどぶっきらぼうに私に挿入し終わってから、カレは意地悪っぽく言った。
「隣の部屋、あいつなんだ。覚えてる?」
 カレが言うには、隣に住んでいるのは、あのセクハラ研修で散々私をからかって恥ずかしい思いをさせた、あの坊主頭なのだという。
「摩耶さんのかわいい声、聞かせてあげようよ」
「い、いやっ、絶対いやっ!」
カレは、部屋の内錠を、ワザと外したままにしていた。喘ぎ声を聴きつけて、あの坊主頭が、部屋に入ってくるかもしれない。ノックも何もせずに……恐怖と不安で震えた。ベットのシーツを噛みしめながら、カレのピストン運動に耐えた。そのときも、カレはいつまでたっても射精してくれなかった。
「困ったなぁ。俺、摩耶さんの喘ぎ声とおねだり聞けるまで、出せそうもないよ」
 まるで私が悪いかのように咎められる。あんまりに理不尽なので、抗議しようとしても、言葉が出てこない。口を少しでも開いたら、変な声が出そうになるから。
 意識が遠くなるほど突かれ続けて、イカされ続けて、もう窓から見える東の空が、うっすら明るくなり始めていた。気づけば、壁の向こうからテレビの音も聞こえなくなり、かわりに大きな鼾が聞こえてきた。
「ほら、あいつグウスカ寝てるから、大丈夫だよ、ちょっとくらいなら。ね、声出してみなよ」
「う、ううぅ、ほ、ほんとうなの?もう、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。摩耶さんのエッチな声、聴きたいな」
「む、むふぅぅぅん、ば、バカァ」
「ねぇ、気持ちいい?いいんでしょ?」
「……い、いいわ。気持ち、いい」
「どれくらい?」
「どれくらいって……、分からない、何も、分からなくなるくらいっ、んっ、あああっ!」
 膣の中を、何時間も搔きまわされて、突きまくられて、頭の中が混乱していた。何時間もあの声を我慢させられたせいで、気持ちのタガが、簡単に外れてしまう。
「中でもいい?」
「うっ……うん。いいよ、出して、中に……」

*****

 悔しいけど、西條君の、無尽蔵に漲ったその身体の前では私は、無力だった。
今日も、膣内の射精をおねだりしないかぎり、この多目的トイレから決して出られない。おねだりしないと、添田さんに、会えない……私は、負けそうになっていた。負けてしまう言い訳に、自分からすり寄りつつあった。
カレがワザとらしく腕時計を見せつけてきた。
「ほら、このままじゃあ、彼氏に会えないんじゃない?」
 目を疑った。このトイレに入ってから、既に一時間半以上経ってしまっていた。もうとても、空港で出迎えることなんてできない。下手をすれば、飛行機から出てきた添田さんから着信があってもおかしくない時間だ。空港で待っていないどころか、その着信さえも取れなかったら?(西條君とセックスしながら電話に出られるわけがない)
これはもう、仕方がないわ。早く、終わらせるしかないじゃない。今からなら、空港には行けなくても、合鍵を使って添田さんの部屋に行って、簡単な食事の支度くらいは、できるかもしれない。
だから、早く終わらせるために、仕方ないの。私のせいじゃない。カレが、西條君が、
こうしないと、出してくれないって、そういうんだから……これは、添田さんのためでもあるんだから……
こうしてまた、西條君の用意した『言い訳』に、私は飛びついた。
「中で、いいから、出して……」

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