カレとワタシのひどく不適切な愛情 > 第2章 狂気のハラスメント研修
[あらすじ]
私の名前は、摩耶。総合商社でOLをしている、二十五歳。 悪質なセクハラに悩んでいたけど、勇気を出して告発した。加害者の上司は、すぐに左遷された。それから私は、大好きな先輩社員と交際中。仕事も恋愛も全てが順調だった。
ある日、人事部から「女子社員向けに、セクハラに関する座談会を開くので、出席してほしい。新入社員研修の一環だから」と言われた。 泣き寝入りする女性がいなくなってほしい。そんな純粋な気持ちで、私は首を縦に振った。

…だけどそれは、巧妙に仕組まれた罠だった。 その先に、自分の恋愛観までも破壊してしまう、淫らな運命が待ち受けているなんて……

2026.01.19 永井 亮
女性一人称、ラブストーリー
読者タグ: なし

あまりに唐突すぎる質問に会場が一瞬静まり返った。ようやくその言葉の意味を飲み込めた他の男子社員が、噴き出した。
「おいおいおい、西條お前、真面目な顔してなんて質問してんだよ!」
「西條って、そんなキャラだったんだ、受けるぅ。ただの根暗野郎だと思ってたら、ギャグセンスぶっ飛んでるな、コイツ」
 そう。このときのカレ。常識はずれな質問をしてきたカレが、西條君だった。ずっと研修室の端っこの方で俯いている感じだったから、ほとんど何の印象も持っていなかった。このときカレが手を挙げるまでは。
 他の男の子たちは、笑い転げていたけど、カレ一人だけは思いつめたような表情をしていた。
「冗談なんて、言ってない。本当にあったことだから」
 ボソボソした声でカレが語ったのは、だいたいこういうことだった。
 
学生のころ。放課後、忘れ物を取りに夕暮れの教室に戻ったところで、カレは鉢合わせしてしまった。自分の幼馴染の女の子が机の角に、股間を押し付けているところに。
よく見ると、幼馴染の女の子が戯れていたのは、カレ自身の机だった。何秒間、呆然と廊下に立ち尽くしていただろうか。そのうち、カレは、幼馴染と目が合ってしまった。知らないふりをしてその場を立ち去るべきか、それとも何か言葉をかけるべきなのか?
カレは、結局逃げるようにして、その場を立ち去った。それが幼馴染を、見殺しにする行為だったことに、カレはすぐに気づかされた。

「翌日から、真由美は、その幼馴染のことですが、学校に来なくなりました。そうして、そのまま春休みに入って、新学期が始まるころには、彼女が転校してしまったことを知りました」
「……そうだったの。それは、悲しい思い出ね。きっと、その彼女、あなたのことが好き好きでたまらなくて、ついそんなことをしてしまったんでしょうね。君の名前、西條君だっけ?君も、その幼馴染の子のこと、好きだった?」
 カレは、鈴原主任の問いかけに黙って頷いた。
「うむ、悲劇だ、悲劇だなぁ、これは。性に関する無知無理解が生んだ悲劇だ。同じことがこの会社でも起こらないとも限らない。是非この研修の仕上げの例題として、取組んでみようじゃないか。ほら、セッティングだ!」
 笹山は、男子社員の一人に命じて、研修室の奥の方から、テーブル付きのミーティングチェアを運んで来させて、私の前に設置した。悪い予感しかしない。この文脈で、私がさせられることは……
「摩耶君。話を聞いていただろう?やって見たまえ、こいつの可愛い幼馴染の再現だよ。ほら、スーリ、スーリってな」
 イスに連結された四角いテーブルの角が、私の股間の真ん前に寄せられた。大きく首を左右に振って拒んだ。
「しません、そんな、変態みたいなこと……」
 会場が、静まりかえった。
「……真由美は、俺の幼馴染は変態、だったんでしょうか……」
カレが、思いつめたような表情で、下を向きながら、ぼそり、と零した。
「あーぁ、言っちゃった。変態って言葉、絶対言っちゃあダメな言葉だよ?性的趣向を元に人を差別するのは、本当に許されないことなんだから」
鈴原主任が、冷たい視線を私に投げかけながら言うと、周りの男子社員達が一斉に私に罵詈雑言を浴びせかけてきた。
 そうだった。思い出した。最近は、いろんな性的趣向の多様性が尊重されるべき、ということが叫ばれている。数年前、『変態』という言葉自体に、マイノリティの排除の意味が込められている、というようなことをどこかの社会学者だかジェンダー学者だかが言い出した。それから、変態、っていう言葉は、徐々に禁句になりつつあった……
「新人たちの規範になるべきあなたが、そういうハラスメントに繋がる言葉を吐いたことは、大問題だわ。心を入れ替えて、誠実に、西條君の幼馴染がどれほど辛い気持ちを味わったか、しっかり追体験してもらわなきゃあいけないわねぇ」
 私に恥ずかしい行為を強要するいい口実が見つかったのがよほど嬉しいのか、鈴原主任は声を弾ませながら言い、私の背後にピッタリとくっついた。両手で、テーブルを手繰りよせながら、腰を私のお尻にグイグイと押し付けてきた。私のスカートの股の間に、テーブルの角の部分が食い込んできた。
「ねぇ西條君?真由美さんは、どんな感じでしていたの、オナニーを?スカート越し?それとも?」
「たしか……スカートは、捲っていたと思います」
「そっか。こんな感じかしら?」
 鈴原主任の細くて長い指が、私のフレアスカートの端を掴み、捲りあげて、それをすっぽりとテーブルに被せてしまった。つまり、スカートの中で私は、テーブルの『角』の部分と対峙することになった。スカートの生地一枚の差に過ぎないのに、『角』の刺激は、途端に強烈なものに感じられた。鈴原主任が私の左右の腰にて手を添えて、乱暴に押したり引いたりしてくる。ガリガリ、グリグリと、敏感な部分が削られるような錯覚に陥る。
「あっ、あああんっ!」
 思わず、声が出てしまった瞬間。
「はははっ、人を変態呼ばわりしておいて、どの口がこんなにイヤらしい声を出すんだ?」
 笹山のからかいに呼応するように、男子社員の群れがひどい言葉を次々に浴びせてきた。

こいつは『変態』という差別語を口にした
差別主義者である以上、どんな言葉を投げつけて嬲りものにしても、構わない

そんな空気だった。
「ほら、西條君に謝りなさいよ。こう言って」
 もう拒否できる雰囲気ではなかった。耳打ちされた言葉を、力なく口にしていた。
「じ、自分も好きなクセに、へ、変態なんて、酷い言葉を使って、ごめんなさい。とっても、反省していますから、許して、ください……」
 周りの男の子達は、私が涙ぐみながら言っても、納得してくれなかった。
「ん?何が好きなの?ちゃんとはっきりみんなに分かるように言えよ!」
 鈴原主任から、さらに酷い台詞が吹きこまれた。
「私、笠谷摩耶は……、二十五歳にもなって……か、角の、オナニーに、夢中になってしまいました。ああっ!もう、許して!」
 男の子達の嘲り笑いで、心が抉られる。思わず叫んで、西條君に対して許しを懇願した。
「……大丈夫だから。俺、気にしてないから。笠谷さんのこと、あまり責めないであげてください」
 そう言った西條君の声のトーンが、さっきまでと少し違っている気がした。

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