「放して!もう、抜いて!」
生の挿入だけは決して許さないと誓ったのに。ドサクサ紛れにねじ込まれてしまった。
どうにかして結合を解こうと全身をくねらせる。両肩を笹山課長の両手が捉えた。動きを封じられたうえ、体重の乗った打擲が加えられる。
絶対に、絶対に、感じてはいけない。この男に屈したら、私も添田さんも搾取されるだけだ。捨て身で抵抗するためにも、快感に負けることは、許されない。ギリギリと音がしそうなほど奥歯を噛みしめる。
「けっ、やせ我慢しやがって。言っとくが、俺は射精のタイミングを完全にコントロールできるんだ。特に二発目はな。素直にクンクン鳴かないと、いつまでだって続けるぜ」
パン…パン…パン。寸分たりともペースを変えない単調なピストンが延々と続く。単調であるが故に、いつまでも終わりの見えない焦燥感が、私を悶えさせる。
男の手が腰を抱きかかえて四つん這いにしようとしたが、私はそれを拒否した。それならば、とうつ伏せで平らになったままの私を、繰返しペニスが出たり入ったりする。侵入時には、少し身体全体を前方へ押しだすような力が加えられる。これが、私を当惑させる。
ベッドのシーツは滑らかなものではなく、目の粗い、ざらついた素材だ。挿入の衝撃で腰が前後に大きく揺さぶられる。その度に、クリトリスがシーツと擦れて、妙に甘ったるい気持ちが込み上げてくる。添田さんとの電話の間に、私の小さな欲望の芽は課長の指によって、愛液をまぶされ、転がされていた。たっぷりと養分を吸ったそれは、ほんの少しの刺激で、簡単に芽吹かされた。
クリトリスを意識しまいとすると、否が応でも中の方に注意が向く。隔てるものが何もない、男性器との衝突、摩擦、熱…。たった一度だけ、添田さんだけに許した本物の交わり。そのキラキラした記憶が、どす黒く塗りつぶされていく。
せめて、込み上げてくるのは、悲しみや喪失感であってほしかった。だけど実際に私を支配したのは、次の、そしてそのまた次の衝撃を求める、「期待」の感覚…。
中側と、外側と。淫らな毒気が全身の血を澱ませる。固く引き結んでいたはずの口も、気付けばだらしなく半開きになってしまって、時折情けない声まで零してしまう。
私の変化を男は見逃さなかった。耳朶を甘噛みしたり、髪を撫でたりして、私を籠絡しようと揺さぶる。
「どうだ、添田のより断然すごいだろ?別にいいじゃないか認めたって。あいつのことが好きでも、チンポだけは俺の勝ちってか。やましいことなんかじゃないさ」
「だ、黙ってください。そ、そんな風に、比べたりしませんから。私は、添田さんだけ…ぐっ、ぐぅぅぅぅぅ」
課長の両手がうつ伏せの私の顎を掴んだ。その手でそのままグイ、グイと頭が引き寄せられる。そのタイミングに合わせて思いきり腰をぶつけられるので、衝突の激しさは一層増した。犯されている。私という人間の、尊厳そのものが蹂躙されている。ふとそんな思いが頭をよぎった。
堕ちろ。肉の悦びを貪る、哀れな雌に。
首元を掴まれて息が苦しいせいか、あるいは全身の血がヴァギナに流れこんで、頭が貧血状態になっているせいか、そんな幻聴まで聞こえてくる。
熱の塊に支配された私は、甘ったるい敗北感に包まれながら、二度目の絶頂へと追い込まれた。自分を律しようとする理性は、またしても居場所を失っていた。
ベッドの枕側の壁は鏡張りになっている。向こう側の自分の、ふと目があった。その女は、熱に浮かされて、満足しきった表情を浮かべていた。
私は、前から知っていた。一度達してしまうと、取り返しのつかないほど感じやすくなってしまうこの身体の脆さを。アクメのループに乗った私を、添田さんはとっても可愛がってくれた。そして、私の身体の痙攣を、自分のことのように無邪気に喜んでくれた。だから私は、そんな自分の身体を心から好きになれた。
だけど…今、私を背後から犯しているこの男は、私が身体を断続的に震えさせるたびに、冷たい、嘲り笑いを投げかけてくる。与えられるのは恥ずかしさと惨めさだけ。添田さんがくれた温もりも、もううまく思い出せない。ただ身体だけが熱く火照っている。
いくつも体位を変えたのち、私はベットの上の天井から伸びた手錠によって、両手を吊し上げられていた。
「そうか、そんなに奥がいいか。じゃあ、これだろ、ここがもろに当たるだろうが」
「あ、あぅ、は、はぁぁぁっつ、そんな、もう、終わりにして、おわり、にぃぃ、…」
課長の手が、私の大股を掴んで引き寄せる。足が宙に浮いて、身体が「し」の字の形に折り曲げられる。引き寄せられる腕の力と、突き上げる腰の力が、私を無力にする。喘いで、跳ねて、痙攣するだけの、肉人形。放つ声も、言葉になりきれない獣の叫びに変わった。
「なぁ、あのおねだり、聞かせろよ。そしたら一旦終わりにしてやる」
「…えっ、な、なんの話ですか」
「へへ、とぼけんなよ、添田の子種をねだっただろ。あれを俺にもやれよ」
「そ、そんな」
西村と前島の手で盗聴された、私と添田さんの愛の営み。それが男を焚きつけている。そして、この男はやはり、中で放つつもりなのだ。しかも、あろうことか私に進んでそれを求めさせようとしている。くしゃくしゃになって打ち捨てられていた理性と怒りが、一瞬ムクっと立ち上がった。
「あなたの子供なんて、絶対にイヤです!私、絶対に警察に行きますから!」
「おぅ怖い怖い。じゃあ、大人しくなるまでこのままオマンコ続けるか、俺はいいぜそれでも。朝まで耐久セックスだ」
言葉通り、男は再びピストン運動に戻った。時計が視界に入った。まだ、午前一時になったばかりだ。このまま突かれ、イカされ続けるのか、朝まで。いや、厳密には正午までだ。精神が、おかしくなってしまいそう…。
唐突に、耳元で、ブーンという機械が聞こえた。目の前に、灰色の球体が現れた。よく目を凝らすと細かく振動している。それは、家庭用の電気マッサージ機だった。胸騒ぎで、鼓動が高まる。何か淫らな、ものすごく淫らなことが起こる、その予感だけで頭が真っ白になった。
「そ、それを…いったい」
「ん?マッサージ機だぞ。凝ったところに当てるのが筋だろう。ここなんかどうだ、コリコリだぞ」
「あ、あひぃぃぃ、やめ、やめ、やめてぇ、当てない、当てちゃいやっっ!」
私の懇願などまるで無視して、振動部が身体の最も敏感な核に襲い掛かった。中では動物的なペニスでGスポットをゴリゴリに圧迫され、外からは機械的な振動で狂わされる。
制御しきれない快感は、苦痛に似ている。許しを乞う以外の選択肢が残されていない。
「もう、許してください、お願いですからぁぁぁ、ま、また、また、ダメ、いっ、っちゃう…」
エクスタシーに達しても、課長は一切、手も腰も動きを緩めなかった。おかげで私の性器は継続的に頂点で留め置かれた。するともう、「考える」ということは不可能になる。性器から湧き上がるドロッとした毒が、絶え間なく脳に雪崩れ込んできて私を人間から遠い存在に変えていく。
「さて、完全に仕上がった姿、大好きな添田に見てもらおうか。きっと気にいるぞ。あっちじゃあ女に不自由しているだろう。お前の姿でマスでもかいてもらおうぜ」
言葉が像を結ぶまでに時間がかかる。一体、この人は何を言っているんだろ?だが、目の前に私のスマホと、その液晶に映る「添田遼平さん」の文字が飛び込んで切ると私はようやく事の重大さに気づいた。ほとんど廃人になりかかった私の姿を、添田さんに見せようとしているのだ、この男は。
「やめて、やめて、やめてえええええ!」
私は、絶叫した。そんな狂態が、男を愉しませてしまっているのは分かる。だけど、男の指の動き一つで、私と添田さんの関係は完全に破壊される。そんな終わり方、受け入れられない。もう、生きる意味すら、見いだせなくなってしまうだろう。
………でも…そうしたら、代わりに、この男が?私を?
最低な考えが脳裏によぎったその瞬間、男が悪魔のような取引を持ち掛けてきた。
「おねだり、する気になったか?まだ、終わりにしたくないんだろ、添田とのこと」
「…はい」
「よしよし。中出しのおねだりしたら許してやるよ。俺たちの関係は、秘密にしておいてやる」
恩着せがましく言う男に、従うほかなかった。でも、妊娠の恐怖が私を放さない。
「うっ…中で、中で…ああ、ダメです、やっぱりイヤ!」
「心配すんなって。アフターピルってあるだろう。ちゃんと用意してるから。後で飲んだら妊娠の危険もないさ」
「…本当なんですか?信じて、信じていいんですか?」
「ウソなんかつくかよ。俺だっていきなりお前を孕ませたらつまらないだろ?これから何度もハメハメさせてもらうんだからよぉ」
今後も犯されることを宣言されてももう、私は後戻りできなかった。最低なセリフを、血痰のように吐き出していった。
「……中で、出して、ください…私…か、課長の、笹山課長の…あ、…赤ちゃんが、ほしい」
私が屈服するとほぼ同時に、男のペニスは急激に膨張し、脈打った。ドロっとした粘体が、とめどなく私の体内に流入してくる。添田さんとの美しい日々、あの小さなマンションの一室での愛おしい時間が、濁流で押し流されていく。私はもう声を立てなかった。一筋の涙だけが、頬を伝った。