[あらすじ]
私の名前は、笠谷摩耶。派遣社員。派遣先の会社は例の新型ウィルス感染爆発の影響で全館閉鎖。契約の都合で、在宅勤務も認められず、一時休業状態に。ひそかに好意を寄せる男性社員から、自宅で仕事を手伝ってほしい、と言われてから、私の人生は大きく変わってしまった。

凌辱専業作家が描く、女性一人称作品。「拗らせ女子」が語る、甘く、切なく、狂おしい奈落。

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2026.01.11 永井 亮
女性一人称、ハード
読者タグ: なし

どれくらい眠っていたんだろう。瞼を開くと、もう目の前に添田さんの顔はなかった。キッチンの方で、洗い物をする彼の背中が見えた。時計に目をやると、眠っていたのはだいたい一時間くらいだと分かった。目が冴えてくると、自分のやらかしたことが、信じられないし、心底自分が嫌になった。ソファから立ち上がる。もうふらつきはないが、替わりに軽く頭痛がする。軽率で、身勝手な行動への罰だ。
「添田さん、あの、ほんとに、ごめんなさい」
「あ、起きた?気分、大丈夫?」
「私、なんでこんな風になっちゃったのか分からなくて」
「はは、そういうこともあるよ。なんか無理して飲ませちゃったから、俺の方こそごめん」
「違うんです、酔ったこと自体じゃなくて…」
「えっ、どういうこと?」
「私、自分が酔いつぶれることも、ちゃんと分かってたんです」
「う、うん…」
「面倒くさいことばっかりして、ごめんなさい。今日は、これで失礼します」
もう、消えてしまいたかった。駆け足で玄関に向かう。一歩一歩が、ズキンズキンという頭痛をもたらす。「処女を拗らせたハケンさん」そんな自嘲の言葉が耳鳴りのよう響いてくる。
玄関でパンプスを履いていると、後ろから細い、けど筋肉質な腕が私を力強く包んだ。
「待って。こんな状態のまま、帰すわけにいかないよ」
「…」
「どうしたらいい?」
「……このまま、こうしていてください…」

酔い覚めの寒気のせいか、恥ずかしさのせいか分からないが、添田さんの腕の中で、私は小さく震えていた。沈黙が、玄関を満たしている。添田さんの腕を解いて、振り返らずにドアを開く。そんな映像が瞼の裏でリピート再生されている。

優しくしてくれて、ありがとうございます。もうこんな迷惑かけないようします。今日はこれで失礼します

頭の中で、セリフが木霊する。だが、口を開いても、声が出ない。彼の腕から伝わる体温や、背中の辺りに微かに感じる胸の鼓動を感じていたい。気まずく、恥ずかしい気持ちはあったが、彼の腕の中に包まれていることで感じられる安らぎの方が、勝った。

「笠谷さんのこと、…放っておけない」

添田さんが、私の肩に顎を乗せるようにして、耳元で囁いた。首筋から背筋にかけて、ゾクゾクする感覚が走る。私のおへその辺りで組まれた添田さんの両手。締め付けるように左右の腕にギュウっと抱き寄せられる。
「なら…放って、おかないでください。私、添田さんに…」

なんて言ったらいいか、言葉が出てこない。愛してほしい、なんて言える訳ない。
一番本心に近いのは、「構ってほしい」…だろうか。でもそんなの、あんまりにも恰好悪いじゃないか。
「顔がみたいよ」
俯き加減の頬にかかった、胸上くらいの長さの私の黒髪。それを添田さんの手がかき上げる。耳や、うなじや頬のあたりに彼の視線を痛いほど感じる。横顔を見られている、ただそれだけのことなのに、さっきの泥酔状態の時と同じくらい頬が熱い。
添田さんが私の肩を柔らかく掴む。私は正面から彼と向き合う形になった。とても彼の眼を見れそうもない。
添田さんの十本の指が、あらためて私のサイドヘアをかき上げて肩の後ろへ流し、そのまま両手で側頭部から後頭部のあたりをがっしりとホールドする。まるで、逃がさないといわんばかりだ。恐る恐る、視線の高さを床の方から徐々に上げていく。添田さんの表情が、いよいよ視界に入ってきた。
目の前にいたのは、いつもの気さくで優しい添田さん、ではなかった。どこか哀しそうで、お腹を空かせた肉食獣のような凄みのある眼つき。見つめられると、心臓が止まりそうになる。
「…どうするつもり、なんですか、添田さんは…」
「自分のものにしたい。笠谷さんのこと」
「…じ、じゃあ、どうぞ」
大好きな人に迫られているというのに、なんでこんな可愛げのない返事しかできないんだろ、私。でも自己嫌悪に陥っている暇もなく、添田さんに抱きすくめられた。さっき酔っぱらってふらついた勢いで倒れ掛かるように飛び込んだ彼の広い胸元。私を支えてくれた彼の両腕は今、私を潰れるくらい固く抱きしめてくる。彼の胸元に私の頬が密着する。息苦しいほどなのに、不思議と心地いい。
彼の口元が、私の右側の耳元に寄せられる。耳朶に、彼の唇が、そして舌先が触れる。触れられた箇所から首筋、背中までがゾゾっと粟立つ。ビクっと背筋が強張る。
「ここの、ほくろ。セクシーだね」
私のうなじにある二つのほくろを舌でツンツンとしたかと思うと、急に唇で固く吸い上げてくる。あまりに強く、長く吸われるので、きっとクッキリとキスマークが浮かんでいることだろう。
「えっ、ちょっと、は、激しいです」
「ごめん。でも、俺のもの、なんだよね」
揶揄うように言われると、胸が騒ぐ。全身どこからみても彼のものだって分かるくらい、たくさんしてほしい。まさかそんなこと、言えるわけないけれど。
「寝室、行こうか」
私はまだ何も答えていないのに、彼は私の手を取って部屋の奥へと誘った。

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