『奸計』外伝 献身妻 瑠衣子の淫獄沼

品川港南口の巨大複合ビルの地下駐車場。黒塗りの車両が、背広姿の中高年たちを拾っては走り去っていく。企業の役員達だろうか。彼らが社有車で帰途につく夕刻。駐車場の一角に、若い女が怯えたような顔をして立ちすくんでいた。

 薄いベージュ色のスプリングコートを着たその女は、か細い指で、生地を重ね合わせている。顔色は蒼白く、唇は小刻みに震えている。

女の様子は、異様だった。

まず、コートの前のボタンは、ひとつ残らず引きちぎられたようだ。黒色の糸が不自然に、不格好に飛び出ている。終始手でコートを手繰りよせている。しかし、過剰なほど防御的な姿勢は、どうしても人目を引きつけてしまう。

女のコートの端からは、スラックスも、スカートも見えない。ストッキングすら履かない生足が覗く。固く重ね合わされたコートの首元からも、衣服の端すら見当たらず、ほっそりと浮き出た鎖骨が剥き出しになっている。

ひょっとしたら、コートの中は、裸なんじゃないか?

そんな妄想を掻き立てるような、なんとも妖しい空気を放つ立ち姿だ。

ここが、駅前広場の雑踏だったら、女は好奇の視線の集中砲火を浴びていただろう。下心からちょっかいを出してくる酔客まで現れたかもしれない。あるいは、大久保公園の街灯の下だったとしたらどうだろう。きっと、立ちんぼと間違われて、いくら欲しいんだ?と声をかけられたに違いない。

行きかう車両に、中年達が吸い込まれていく度、女はほっとため息をついた。

ああ、違ったわ……

そうして、また次の車両へと不安げに視線をうつす。役員車両の往来が一段落して、地下駐車場から人の気配が途絶えつつあったその時。九人乗りくらいのリムジンが滑り込んできた。ビジネス街には場違いな、深紅のリムジン。その運転席から出てきたのは、まだ二十代中盤くらいの、長身の若者だった。

「ふふ、瑠衣子先輩。おひさですねぇ。相変わらず、おキレイですよ。今日は、僕がアテンドさせてもらいますからね」

 容姿端麗だが、どこか軽薄そうな長身青年。その目はぎらついていた。瑠衣子、と呼ばれた女の全身を舐めまわすように見つめている。言葉尻こそ、丁寧語を使っていたが、その態度や眼つきは、獲物を狙う肉食獣のような残忍さを宿している。瑠衣子は、思わず視線を逸らした。

男が、リムジンの後部座席のドアを開けた。車内の暗がりから、巨漢の白人男性の達の姿が見えた。四人、いや五人はいるようだ。

「さ、瑠衣子先輩。お召し物を、お預かりしますよ」

 長身の青年が手を差し出して、コートを脱ぐように促す。瑠衣子の指に力が入った。指示には従わず、一層固く、コートを身体の前で重ね合わせた。

「こ、ここでは、脱げないわ。乗ってから、中で脱ぐから……」

「ん?ここで追い返されたいんですかぁ、せんぱい?あんまり駄々をこねていると、橘社長に、連絡しますよ?」

「……そ、それは、ダメです」

 押し問答をしているうちに、後ろでまた車が詰まってきた。大きなリムジンは、乗り場を占領してしまっている。後ろの車両の運転手が、眉間に皺を寄せながらこちらを睨みつけてくる。

「ふふ、なるほど。ギャラリーが増えるのを待っているんですか。さすが、露出狂の瑠衣子先輩、相変わらず健在ですね」

「ち、違うわ!そんなわけ……」

 このままでは、痺れを切らした運転手が出てきてこちらに近づいてくるかもしれない。時間の経過は、自分にとって有利に働かない。そう悟った瑠衣子は、震える手つきでコートの端を開いていった。

コートを脱ぐと、洋服は一切身に着けておらず、扇情的な下着のみを纏った女体が飛び出した。

股間を起点にして、Ⅴ字型に女体の上を走る真っ赤なレース地の下着は、乳房の頂点を経由し、肩の上を通って身体の裏側に回っていた。背中の方でも、やはりⅤの字を描き、最後には尻の割れ目の中に吸い込まれるようにその姿を隠していた。

レース地は、あまりにもか細かった。幅と言えば、どうにか乳輪を隠すのがやっとで、身じろぎしようものならすぐにはみ出てしまいそうなほどだったし、股間部分の切れ込みは痛々しいほど鋭い。薄く柔らかな茂みも、いくぶんかはみ出てしまっていた。

瑠衣子の肌は、透き通るように白い。肩先までのミディアムショートの黒髪は、遠くからでもそれと分かるほど艶立ちがよかった。顔の作りはごく小さい一方で、瞳はくっきりと大きかった。それが、不安と恐怖で細かく震えるのが独特の悩ましさを醸し出している。

後ろで一時停車している車両の運転手が、窓ガラスに顔を突きつけるようにしながらこちらを凝視しているのが目に入って、瑠衣子はたまらず頬を赤らめた。

 また、淫らな衣装を目にして、興奮したのだろうか。リムジンの中の白人男性たちから、歓声が上がった。

「ふふ、中々好評のようだ。よかったですね、先輩。ほら、突っ立ってないで、挨拶しないと」

 長身の青年に促された。

ほとんど半裸の総身を羞恥に悶えさせながら瑠衣子は、ここを出る前に暗記させられた英語の台詞をたどたどしく口にした。

「ア、アイアム、ルイコ オオマエ。アイム、マリィード、バット、ウォナ ファック、アロット。ソ、ソォ……プリーズ、ドント、ヘジテイト トゥ……レイプ、ミー」

「はははっ!よくできました。ほら、入りなよ」

 ほとんど剥き出しになった臀部を、長身青年の革靴の底で蹴り飛ばされた。瑠衣子は車中に身を投げ出すような形で吸い込まれた。リムジンのスライドが、ゆっくりと閉まっていく。車中は暗く、目が慣れて中の様子が見えてくるまでに、数秒を要した。 暗がりの中から、五本の男根が浮かび上がってきた。車中の白人男性はもう、下半身の衣服を脱ぎ捨てて、全員が全員、肉の凶器を瑠衣子の顔の周りに突き立てているのだった。

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